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映像はそこで終わった。
データ信号の文字だけが表示された黒い画面を見つめたまま、伶は放心した。
これは、何だ。
実の父親が純也であることを、灯真から聞かされた時のことを思い出した。その事実を伶が知っておかなければ、純也が可哀想だと灯真は言った。
純也は、伶を愛してくれていた。
それなのに、なぜ、という思いは消えない。この映像からわずか一年で、純也は逝ってしまった。
止め処なく涙が流れた。何度も何度も再生ボタンを押した。自分が愛されていたことを確認するように。
人は過ちを犯す生き物だ。赦すことで自由になれる、と詩織は言った。でも、誰を、何を、赦せばいいのだろう。
なぜ。なぜなんだ。
命を絶つほどの事情は何だったのか。樫村美咲だけが純也の最期を知っている。伶は、どうしても美咲を赦せなかった。まだ詩織のような悟りの境地には至れなかった。
家族と仲間に囲まれた幸せな人生を棒に振るほどの恋とは、どんなものなのだろう。そんな狂おしいほどの恋を伶は知らなかったし、知りたいとも思わなかった。
「なんてかわいいんだろう」
純也の優しく清らかな声が、耳から離れなかった。
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