17. 疑似恋愛の掟 【陽人】

6/10
前へ
/246ページ
次へ
 圭史社長がIF5に寄せる期待は絶大だ。既存のアイドルグループとは違う戦略で、自らプロデュースし、教育してきた。計算しつくしたファンサービスでファン心理を巧みに操作して、ミリオンズをホストにはまって抜けられない客のような状態にして貢がせる。他のアイドルグループのファンよりもミリオンズは狂信的だと言われているが、すべては圭史社長の戦略通りだった。  アイドルも私生活で恋愛するのは人として当然の権利である、という考えは社会的には正しい。でも、ショウ・ビジネスの世界で一流のアイドルとして生きていくには、それが表沙汰になることは禁忌だ。圭史社長は「一流のプロ意識があるかないかが生活のすべてに出る」と常にプレッシャーをかける。  結との恋に至福を感じながらも、陽人は盲目になっていく自分が怖くもあった。いつも結に(たしな)められ、励まされるおかげで、幸せな私生活と順調な仕事の両立がなんとか成り立っていた。でも、周りが見えなくなっている自分のせいで油断して、いつ、どこで、誰に気づかれるかと、心の底では怯えていた。 「陽人、起きて! 大変。もう5時よ!」  結に揺すられて飛び起きた。泊まらずに帰るつもりが、寝落ちしてしまった。6時にはマネージャーの斉藤が自宅まで迎えにくることになっていた。最速で支度をして結のマンションを出た。  5時半には自宅のマンションの前に着いた。駐車場のシャッターを開けようと停車すると、道の反対側に斉藤の車が停まっていることに気が付いた。約束の時間は6時だったはずだ。嫌な予感がした。  部屋の鍵は開いていた。マネージャーは緊急時に備えて、メンバーの部屋の鍵はすべて持っている。ドアを開けると、斉藤の物と思われる靴があり、リビングの明かりが点いていた。  斉藤はソファに座ってスマホを見ていたようだが、陽人に気づいて顔を上げた。 「おはようございます。もしかして、僕、時間を間違えていましたか。6時のピックアップだと思っていました」 「いや、ごめん、俺が1時間間違えたんだ。待っていても出て来ないし、インターフォンも電話も出ないから、心配になって中に入らせてもらった。怖かったよ。何かあったんじゃないかと思って。無事でよかった」
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加