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10. 面倒くさい男 【陽人】
年間を通して雑誌やネット上で様々な人気ランキングというものが存在する。アンケート対象の性別や年齢を鑑みて、KCエージェンシーではいくつかのランキングを重視してチェックしていた。
「ハルの三冠王は一年で破られたな」
事務所でのミーティングの際、マネージャーの斉藤は、実際の雑誌をメンバーに回覧させた。
10~20代女性が選ぶ「彼氏にしたい男」
第一位 Naru (IF5)
20~30代女性が選ぶ「抱かれたい男」
第一位 江崎伶(Movers)
10代~20代男性が選ぶ「嫌いな男」
第一位 Haru (IF5)
他のメンバーも様々な位置でランクインしていたが、昨年、圭史社長が重視する「三冠」を達成した陽人が、よりによって親友の成海と異母兄の伶にポジティブな二部門で破られて順位を下げ、「男性が選ぶ嫌いな男」だけ一位をキープという結果に一同はコメントのしようがなかった。
空気が読めないリンだけは、
「ちなみに江崎伶は『10代20代の男性が憧れる男』部門でも一位だよ。ハル、完全に負けてんなー」
と雑誌のページをめくりながら無表情で指摘した。
男の子に憧れられる伶と嫌われる陽人。ロックスターとアイドルの違いだけとは思えなかった。
マネージャーの斉藤は陽人を慰めた。
「なんといっても『男性が選ぶ嫌いな男』っていうのが一番重要だと社長は言っているよ。同年代の男に嫉妬されてこそトップアイドルってことだ」
斉藤は半分笑った顔だった。社長に同意しているというよりは、こんなもの、と呆れているように陽人には見えた。
男に嫌われる、ということについては、学校でも散々いじめられてきたので陽人は納得できた。
でも「彼氏にしたい」「抱かれたい」などと言われるのは、それだけアイドルの『ハル』を演じ切れている証拠とはいえ、現実とは違うイメージに戸惑ってしまう。実際、陽人は一度も女の子と付き合ったことさえなかったのだから。
「ハルは理想が高いんじゃなくて、面倒くさいんだよ」
よく成海にそう言われるが、自分でもその通りだと認めていた。
人一倍警戒心が強いのは子供のころから同じだ。その上、母・美咲を彷彿させる計算された女のあざとさには拒絶反応がでる。その「面倒くささ」に成海は呆れかえっていた。
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