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ある日、それは突如として空から降り注いだ。数からして数万は下らないだろう。
大きさはピンポン玉くらいで、形は不揃いで一定していない。重さはとても軽く、感触はほとんど感じない。
不思議なこの果実かが一体何なのかは不明だが、味はとにかく甘く、陳腐な表現になってしまうが、この世にこれ以上の甘さは存在し得ないであろう甘さであった。
人々はすっかりその味の虜になった。そして、一度その至福を覚えてしまったからには、その欲求を満たす為、本能の趣くままに奪い合いを始めた。
奪い合いの闘争は終わることを知らず、ただ徒に種の数を減らしてゆく一方であった。
しかし、種が絶えることは決して無かった。
理由は簡単である。それを食べるとごく稀に不老不死を得られるからである。
この果実は長い時間をかけて成長を続け、食べ頃になると自然と落ちてくる。
だが、落ちてくるのは決まって夜だけ。自ら地に落ちて人々の手に渡る。
実はこの果実の正体は、夜空に浮かぶ星々――人々がそう認識しているものであった。それらは実は果実だった。
無論、馴染み深い太陽や月も例外ではない。
星は無数に存在するが無限ではない。欲望の留まることを知らない人々が必要以上に求めれば数多ある星とは言え底を尽きる。
そうなれば天地を照らす光は無くなり、永遠に夜が明けることのない闇の世界へと変貌する。天も地も人も、何も見えず、感じずの虚空だけが残った。
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