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以上、虹色に光り輝く果実についての神話講談であった。
少女の表情は冴えない。仙人の話を半信半疑、恐らく十中八九疑の方へ偏っているだろうが、それでも仙人は満足気な様子であった。
「……おじさんのお話、大体は分かった。でも、それが全て本当だったとすると、辻褄が合わないことが今起きているんだよね」
「おっと、それは一体何だい?」
「簡単だよ。どうして私たちはお互いが見えるの?」
言われてみれば尤もな話だ。何も見えない、感じないほどの闇の中であるのなら、少女と鳥仮面の仙人はお互いの姿を認識することなど不可能な話だ。鳥仮面の仙人の話と現状とで明らかな矛盾が生じている。
「特別だからじゃないかな?どこにでも異端的な例外は存在するものさ」
鳥仮面の仙人はそう説明した。実に見苦しい言い訳にしか聞こえなかった。
「それって結局全部おじさんの作り話じゃ――」
少女が喋っている途中、遮るように突然目映い光が無数に四方八方から差し込んだ。
「えっ、何?ま、眩しい」
全てを覆い尽くしていた闇は汚れのように剝がれ落ちた。
突然の光に目を覆っていた少女が辺りを見渡すと、上には夜空が、下には大地が広がっていた。
「おじさん、一体何が起きたの?」
「あーあ、起きる時間だ。また世界が始まってしまう」
鳥仮面の仙人は小声で呟いた。
「あー、これは作り話じゃないってことが証明されたでしょ。まあそんなことよりも大事な話があるんだけど、聞いてくれる?」
「……嫌と言ってもどうせ喋るでしょ?」
「勿論」
鳥仮面の仙人はゆっくりと立ち上がった。
「虹色に光り輝く果実の正体は空を見上げれば丁度見えるあの星々だってことは既に知っていると思うけど、それが生る樹はどこにあるのか?実に簡単な話。あまりの巨大さ故に全貌を見るなんて不可能。そりゃあそうだ。あの空の果てに広がる宇宙こそ樹そのものであるからだ。樹は闇に埋もれてゆっくりと成長を続け、ご覧の通り、果実は生った。そして、全てを覆っていた闇は光によって打ち消され、世界は再び始まった」
傍から見れば自己陶酔に陥っているようにしか見えない鳥仮面の仙人を他所に少女はじっと星空を見つめていた。
「ねえ、おじさん。あれはいつ落ちて来るの?」
少女は星空を指差して言った。
「さあね。食べ頃になれば勝手に落ちて来るけど、それは今日かもしれないし、明日かもしれないし、将又何百年後かもしれない」
「気まぐれだね。まるで永遠の命を持っている仙人みたい」
少女は鳥仮面の仙人を一瞥し、どこか嫌味っぽく言った。
「果実には果実の問題があるだけさ。我々がどれほど切望しても、叶わないものは叶わないってことさ」
結局、この時はいくら待っても果実が落ちて来ることは無かった。
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