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「ハチミツちゃん」
オクトゥブレはにっこり笑って、その手のクッキーを半分に割り、迷いもなく大きい方をハチミツに差し出した。
「一緒に食べよ」
そう言って笑いながら小首を傾げたオクトゥブレの、ふわふわの赤毛が揺れたのを覚えている。
あの子が、あの細い頸が、首斬り石に乗せられて……
その姿を想像してしまいそうになり、ハチミツは奥歯をギュッと噛みしめた。
「何か、オクトゥブレの物を持って帰ってあげられればよかったんだけどな……」
アーロンの養鶏場には、大きな焼却炉があった。鶏の残さいを処分する施設だろうが、あの男がそれを、他の用途に使わなかったはずがない。
ハチミツはオクトゥブレの亡骸も形見も、見つけることができなかったのだ。
「そのクッキーの話、母親にしてやってくれ」
マスターはカウンターに背を向けてうつむき、明日の仕込みなのか忙しなく手を動かしている。
「……分かった」
ハチミツはぴょこんとスツールを飛び降り、出口に向かった。
「おやすみ、マスター」
「あぁ、おやすみ」
古い仲間と、血を分けた娘。胸の内では大切に思っていただろう二人を失ったマスターの声は、湿って震えていた。
ハチミツはそのことに、気づかなかったふりをした。
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