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「ま、待て……っ」
氷塊を落とされる恐怖に、アーロンは慌てて声を上げた。すると少女は葉巻を吸う仕草で右手を口に当て、上向きに白い息を吐き出した。
「覚悟ができるまで、待ってあげる?」
唇を真一文字にしたハチミツが、目をすがめた。微笑か嫌悪か分からないその表情に、男の焦燥が加速する。
「わ……私を殺したら、ここで働いている女たちは路頭に迷うんだぞ?!」
「エミリアおばさんが、続きはやってくれるって」
「頭の弱い女どもに、経営なんかできるはずがないだろ!!」
うわずった叫びが、夜の空気を震わせる。
ぽたり
首すじに水滴が落ちた。ハッと視線を上げたアーロンの目が、氷塊に釘付けになる。
「ひぃ……っ」
氷の斧にはびっしりと少女の顔が写り、その全員が恨みのこもった目で、アーロンを凝視していた。
「適材適所、とか言ってたね、さっき」
「あ……ひ……」
「それならあんたにふさわしい場所は、地獄だよ」
ハチミツは静かな声で宣告し、左手をゆっくりと、上向きに開いた。
ゴッ
落下した氷の刃が、一瞬で男の首を斬り落とす。分断された体を、氷塊が地面に押し潰した。
衝撃で砕け散った首斬り石の破片が少女の頬を掠め、白い肌に鮮血が流れる。ハチミツはその血を拭うこともせず、蕾泥棒の成れの果てを、じっと見つめていた。
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