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4. 明け方のバー
「よかったの? あの蕾泥棒、昔からの友達なんでしょ?」
ハチミツが聞くと、カウンターの向こうでマスターは、フッと鼻から息を吐いた。
「バカやってた頃、仲間だっただけだ。それに、悪いことしてるオトモダチがいたら、ダメだよって教えてやるべきだろ?」
少女は半目になって、後半のしらじらしい台詞を聞き流す。ニヒルに笑ったマスターが、その口のままふと、目を伏せた。
「エミリアとは昔、一緒に暮らしてた時期があってな」
「いつ頃?」
「14年前」
「それって……」
オクトゥブレには父親がいない。エミリアはずっと女手ひとつで食堂を切り盛りし、一人娘を育ててきたのだ。
「子どもにそんな話していいの?」
ハチミツが真顔で言うと、マスターは何か言いたげに息を吸い込んだが、無言でそれを吐き出した。
肩をすくめた彼の赤い癖毛を見つめ、ハチミツはぽつりと呟いた。
「オクトゥブレ、いい子だったよね」
「……そうか?」
「あたし、クッキーもらったことあるんだ」
エミリア食堂に用があり、ちょっと寄ったときのことだ。店を手伝っていたオクトゥブレが、客にクッキーを一枚もらっているところに出くわした。
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