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「ロミオくん、聞いてたよりいい奴じゃん。歪みきってるのかと思ってたけど人間味あって可愛いし。拒絶せずにちょっとは構ってあげてもいいんじゃない? 」
車のハンドルを握るリョウが横顔で語る。彼はこの時だけ、ハンドルを握っている時だけはまともなはずなのに、発されたこの台詞はちょっとまともだとは思えない。
二人に観察されながらパンケーキを食べ終え、なんだか和やかになってしまっている雰囲気に危機感を感じた私は「そろそろ帰らないと」と休戦中だったリングにタオルを投げた。
ロミオくんの中の私の名前の付いたフォルダを汚すために、リョウにも着いて来てもらって私のだらしなさをすべて知ってもらおうという作戦だったのだけれど、ロミオくんは開口一番に何故セフレもいるのかと言った。その言葉が出てきた時点で私の作戦は失敗だったんだ。職場の従業員たちにはマモルさんの存在を話しておらず、時々仕事終わりに迎えにくるリョウを恋人だと思っている。だからもし職場の誰かからリョウの存在を聞かされていたとしても関係性は恋人なはず。
あれだけ私のSNSに張り付いて、これだけつれなくしても何度も連絡を寄越してくる男だ。それこそ探偵を付けていても不思議じゃない。
「……でも確かに、思ってたより狂ってなかった」
SNSを更新した時は必ず、そうでなくてもどうでもいい話で頻繁にくる連絡。カフェに来た時の私を見るギラギラとした瞳。それらに恐怖を感じて目を合わせることすら拒んでいたけれど、今日、私にナイフとフォークを握らせたときの表情からは純粋に私を想う柔らかさを感じてしまった。
「単純にみぃのストーカーなだけの普通に良い奴だったね」
「え、ストーカー? 」
「あの情報の知りようはストーカーじゃない? 」
「でも私、別に後付けられたりしてないよ」
「気付いてないだけかも。気付かないように上手くやるんだ、ああいう頭の良い男は。愛されてる証拠だね」
いつものようにニコニコとした表情を浮かべながらそれなりに恐ろしいことをさらりと言ったリョウはその話の続きかのようなテンションで「で、どうする? ホテル? 帰る? 」と前を見据えたまま私に聞く。
「今日は、帰るね」
その言葉に「了解」とだけ言いながらリョウはすぐに向かおうとした道から進路を変更する。その速度の速さに、実は彼からは愛されていないのではと一瞬だけ不安になった。
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