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程好い倦怠感にまどろみ浸りつつお互いがそれぞれの携帯に触れていた時に今日もロミオが始まった。
プン、と短く軽い音に設定しているラインの通知で差出人と送られた内容の前半数文字を確認すると無意識に顔が歪んでいたらしく、隣で横になっていたリョウが携帯をベッドの下に落とし視線を身体ごとこちらに向けると私のウエストのくびれに嵌めるように腕を乗せた。
「なに?ロミオくん?」
少しの眠気が混じって甘さが漂う声でリョウの言うロミオくんは、ロミ男くんという人名のようなイントネーション。
「インスタ見たよ。かぼちゃとさつまいもの季節がまた来たね」
既読にはせずに通知で見えた範囲を読み上げるとリョウが「可愛いなロミオくん」と笑った。予想ではこの続き、最低でも三行くらい続いていると見られる。
半年前くらいからだろうか。関係を断ってから二年になるこいつ、ロミオくんからのSNS監視及び目にした投稿の一つ一つに対しての返信がいきなりラインで届くようになったのは。
リョウにこの話をした時に「それってロミオメールって言うんだよ」と教えられ、別れた女性に未練を持った男性が送ってくるロミオとジュリエットのセリフで扱われているようなポエムじみたメールをロミオメールと呼ぶことを知った。
「なに、かぼちゃとさつまいもって」
「秋にコンビニで並ぶスイーツの代表格」
「そっか、美味しいもんね」
一瞬だけ疑問には思うけれど答え以上に深く掘り下げない適当さが心地良くて。どうでもよくなって私も携帯をベッドの下に落とす。画面が割れないように脱ぎ捨てたワンピースの上に落とすとポスっと柔らかい音を立てて、埋まった。
その流れでサイドテーブルにある500mlの水のペットボトルを取ろうと身体を起こしたところで意図を組んだリョウが私のくびれに置いていた腕を伸ばし、私を越えて、水を手にした。シルバーのネックレスが揺れて私の肌に触れる。裸体にアクセサリーだけって妙に色っぽいもんだな。渡された水をゴクゴクゴクと三秒くらいかけて流し込み一度口内に留めてから一気に飲み込むと水が体内を駆け抜けて行く速度を体感する。
その様子を眺めていたリョウは「めっちゃ飲むじゃん。喉渇いてたの?」と微笑んで私の首すじに指を這わせゆっくりと摩った。
「一気にごくって飲み込むとさ、水分を体内に摂り入れたぞ感が増して爽快なんだよね」
「水だぞー、って感じね」
「それはよくわからないけど、多分そんな感じ」
水のキャップを閉めてサイドテーブルに戻し、下着を探そうとベッドの下を覗き込んだところでリョウによって身体がベッドに戻された。
そのまま私を潰すのではないかと思う程の力で抱きしめるもんだから、息が苦しいというより鼻が潰れて折れそうだったのでリョウの二の腕を叩きながらバタバタともがく。なんとか緩められた腕の中で顔を上げて酸素を摂り込むと、私の顔を柔らかな表情で見降ろしていたリョウと目が合った。
「ねえ、いつ別れるの?」
一瞬冷え込む私の肺。会う度に言われるそれに罪悪を感じないと言えば嘘になる。それはリョウに対しても、マモルさんに対しても。
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