もういいや

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もういいや

 薄っすらと夜の明け始めた午前五時過ぎ。やっと、あの人からの返信が届いた。私はすっかり腫れて重くなった瞼を開き、メッセージを確認する。  案の定、無機質な「ごめんね」の文字が目に入る。この文字も、見慣れたせいか最早何の感情も湧かない。 「もういいや」溜め息と共に吐き出してみる。口ばっかりのあの人には、もううんざりだよ──。  本当に、今となってはすっかり遠い日々になってしまった。あの人の愛を感じていた日々も、一緒に笑い合っていた日々も。  戻りたい。それは、何度も、何度も願った言葉だ。そして、何度も、何度も打ちのめされた言葉だ。戻りたい……。 「もういいや」 「もういいや」  私は何度か声に出して言ってみた。しかし、それはどこか他人の声を聞いているようで、自分の喉から発せられている実感はまるでない。  どさり、と仰向けにベッドに倒れこみ、両手で顔を覆った。  私も、口ばっかりなのだ。
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