英語演劇部で日本昔話の泥棒を演じた話

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 私は中学時代、英語演劇部に所属していました。  その名の通り英語で演劇をするという面倒なチャレンジを中学生がするという部活ですが、中学二年生の後半からは部員が数名しかいない少人数の部活になってしまいました。顧問の先生は演目に頭を絞ったようです。それで、二年生の最後に演じることになったのは、日本昔話の『だんまりくらべ』でした。 『だんまりくらべ』は、おじいさんとおばあさんが餅を食べているところからはじまります。  最後に残った一個の餅を巡って、おじいさんとおばあさんがだんまりくらべをします。最初に言葉を発した方が負けという勝負です。おじいさんとおばあさんはずっと黙っていますが、そこに泥棒が入ってきます。おじいさんとおばあさんは泥棒に気が付きますが、声を発すると負けるので、ずっと黙っています。最後に泥棒は、二人が争っていた餅に手をつけようとします。おばあさんは叫び声を上げて泥棒を追い払いますが、だんまりくらべに負けてしまい、餅はおじいさんのものになる、という筋立てです。  私が演じることになったのはこの、泥棒でした。日本昔話の泥棒なので、股引にほっかむり姿の泥棒です。  覚えている台詞が二つあります。二つしか覚えていないのはいにしえの記憶だからですね。歳を取ってしまいました。  一つ目は、“Let’s steal something good!” でした。おじいさんとおばあさんの家に入ってきた泥棒が、二人が寝ているものと思い込み、唐草模様の風呂敷を『パン!』と広げて吐く台詞です。  もう一つは、”Wow! They are waking! I was surprised!” でした。おばあさんに反撃されて、驚いた泥棒が逃げ出すシーンですね。  この、悪漢を演じるというのは面白いものです。最初のセリフでは、”steal” のところを強調して、いやらしさを出すとともに、そのタイミングで風呂敷を広げます。いかにも軽薄なイントネーションになるように、まるでアメリカの若いチンピラのように聞こえるような声色を使います。中学生女子の演技だからたかが知れていることは確かなんですが、気を配ると気を配らないでは、それでも大きな違いがあります。  それだけだと自慢話にしかならないのですが、一つ悩みどころもありました。  泥棒中の演技で、『ピンク・パンサー』のテーマに合わせて、抜き足差し足忍び足の演技を、体でしなければならないことです。ちょうど、表紙に使わせていただいたいらすとやさんの画像のようなポーズでした。  声の演技は得意な方でしたが、体を使う方は自信がなかったので、これには苦労しました。
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