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『ヤレヤレだな……』
既にヴィオラの霊魂は呪いに転じようと、どす黒い熱気を放ち始めていた。
挙句に草木が怖れにざわつき、風が出始める。
このまま放っておけば山火事を呼ぶかもしれない。
なるほど、まさに因果応報だ。
樹海が焼かれれば魔獣は住処を追われることになる。
因果を持ち込んだサルボは血祭りにあげられ、魔獣は新たな住処を求めて人里を襲うだろう。
怨嗟は巡り、ヴィオラの望んだ原風景は失われたまま戻らない。
そして私は真っ先に呪いの業火に焼かれて死ぬだろう。
やはり、物事は常に必然の上に成り立っていると知る。
ならばヴィオラに乞われた私の答えは決まっていた。
『いいだろう。お前の身代わりにエイラード・ビクターに嫁ぎ、和平条約を締結させてやる』
何となく、己の未来が垣間見えた気がした。
およそ魔女と知れ、私は火あぶりに処されるのだろう。
抗いようのない未來はいつだって容赦なく訪れる。
逃げても無駄だと悟るほどには、私は死を迎えていた。
落ちてきた指輪なんぞをうっかり填めてしまったものだから、まったくとんでもないことに巻き込まれてしまった。
しかしながら悪くないと思うのは何故なのか?
――美しい光景だった。
ヴィオラの見せてくれた原風景、あれの為に残された時間を使うというのならば、今生の生き様としては実に美しい最後だ。
安堵に微笑を浮かべてヴィオラは指輪に収まった。
そして、私は己の身体に舞い戻る。
「さて、では共に行こうかヴィオラ」
『はい、ミラ様』
指輪に憑りつかれた私は、人生の門出――いや、節目に向かって歩み始めたのだった。
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