悩み

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悩み

最近、私は凄く悩んでいる。頭がおかしくなりそうだ。 朝起きて仕事へ行き帰って寝るまで、その悩みは私の頭から離れる事はない。 その悩みとは・・私の部屋に幽霊が出るのだ。 その幽霊は決まって夜の九時になると出る。幽霊に時間という概念があるのかは知らないが、元は生きていた人間。恐らくその時間帯に亡くなったか、その時間に何かしらの強い想いがあるのだろうと勝手に思っている。 東京に上京して五年。 今住んでいるアパートは、当時築三年という比較的新しいアパートだった。 駅から少し離れているが、スーパーやコンビニ。小さいながらも活気のある商店街が近くにある。田舎者の私には、その商店街が地元の商店街とよく似ていたため、迷わず今のアパートを選んだ。 東京郊外のアパートだが、田舎のアパートの家賃と比べると流石東京。かなり高額な家賃となる。しかし私にとっては憧れの東京。仕事も決まっていたし、なにより東京に住むのは私の夢でもあった。なので、高い家賃というのは私にとってはそれ程問題視してはいなかった。 勿論、住む場所を決める前に某サイトでのチェックも忘れない。 事故物件がすぐに確認できるサイト。田舎と違い、東京はけた違いに事故物件となるモノが多かったが私の部屋は大丈夫だった・・・はず。 なのに、今年の8月から私の部屋に幽霊が出る。 その幽霊は男なのか女なのか分からない。分かっているのは、フードを目深にかぶりズボンを履いている。だらりと力なく下ろした両腕の先はぼやけていて見えない。部屋の隅にぼうっと立っていたり、部屋にある姿見に映ったりと何を訴えるわけでもなく必ず夜の九時にどんな形だとしても現れる。 夜の九時といえばまだ宵の口。寝る時間ではない。 部屋の明かりをつけテレビを観ていたり、お風呂に入っている時もある。いわゆるリラックスタイムだ。 そんな時に現れ、数秒で消える。 一体どうして現れるようになったのか・・全く自分に心当たりなどないし、分からない。 その幽霊が現れるようになってからというもの、私は夜の九時が来るのが恐ろしくなっていた。 「・・・と言う訳なのよ」 私は、会社の同僚(由美子)と休憩所でお昼を一緒に食べていた。 由美子は私と同期で、おっとりした性格をしているが芯の強い人だ。来月に二つ年下の男性との結婚を控えており、由美子より三歳年上の私にとっては、先を越されたと悔しい気持ちもあるが、由美子の幸せを素直に願おうと。     そんな幸せに満ち溢れている由美子に、自分の部屋に出る幽霊の事等を相談していいものか迷っていた私だったが、毎日のように出る幽霊に困りほとほと神経をすり減らしていた私は思い切って話してみた。 それに由美子はオカルトまがいな事が大好きな人間だ。科学では説明がつかない神秘的な出来事や超常現象。心霊や占い、黒魔術や魔女術等々・・ 現実的な私にとっては到底考えないような事を、の観点から考える少し変わった人間なのだ。   なので、今回私を悩ませている事も由美子の視点から解決の糸口が見つかるのではないかと期待し話したのだ。 「ふ~ん。フードを被った幽霊ねぇ」 由美子はオレンジジュースを飲みながら言った。余程好きなようで、お昼には必ずオレンジジュースを飲む。 「うん・・・大体なんで夜の九時にしか出ないのかしら」 「本当にその時間しか出ないの?」 「うん。九時に出て、五秒・・・ぐらいかな、直ぐに消えちゃうんだけど」 「う~んなんだろうね。その時間がヒント・・とか?」 「夜の九時っていう時間が?」 「そう。その部屋で、夜の九時に自殺したとか・・・」 「そんなはずないわよ。ちゃんと事故物件サイトで調べたもの。私の部屋は載ってなかったわ」 「でもさ、絵美が引っ越してきた時あのアパートは築三年でしょ?絵美の前に住んでた人でそういう人がいてもおかしくないじゃない?それにその事故物件サイトって本当に信用できるの?」 「んん・・・」 そう言われてしまうと返す言葉がない。 由美子の言う通りサイトの運営だって完ぺきではない。見逃してしまう事もあるだろう。 「そうだ!」 食べ終わった弁当のふたを閉めながら、由美子は何を思い出したのか大きな声で言った。 「な、何?びっくりした」 「アレやってみたら?」 「アレ?」 「盛り塩よ」 「盛り塩?」 「そう。アレって清めてくれるんでしょ?良く料亭なんかの玄関の両脇に置いてあるじゃない」 「そんなの利くかなぁ」 「一応やってみれば?」 「うん・・・・」 安い塩で幽霊を撃退できるのなら、こんなに楽な事はない。半信半疑な部分もあったが、藁にもすがりたい私は帰りにスーパーに寄り塩を買って行こうと考えた。
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