盛り塩

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盛り塩

「こんなものかしら」 塩を小皿に盛り、部屋の四隅に置いた。 「本当にこんなので大丈夫なのかな」 確かに葬式の時「清めの塩」と書かれた小袋を貰う時がある。お寺がくれるのだから塩にはそういう力があるのかもしれないが、私はいまいち信用していなかった。 しかし、何もやらないよりはいい。部屋の隅に塩を四つ置くだけで、毎日九時に現れる幽霊から解放されると思ったら安いものだ。 八時。 幽霊が出る時間まであと一時間。 ベッドに座り目だけをぐりぐりと動かしながら部屋の様子を伺う。自分しかいない事を確認し、テレビに視線を移す。テレビでは、お笑い番組がやっているが全然内容が頭に入って来ない。幾度となくテレビと時計を交互に見る。 (あと45分・・・今日は何処に出るかしら・・・由美子が言ったようにこの部屋で自殺した人の幽霊?夜の九時に首を吊って・・・) 自殺の手段としてすぐに首吊りを思い出した私は、天井を見上げ首吊り用の縄を掛けられそうな場所を探す。 (ないわね。じゃあ・・・ドアノブ?) 部屋と廊下を繋ぐドアのノブに視線を移す。 その場所に紐を括りつけて、自分の首に・・ 「あ~やめ!気持ち悪い!」 私は頭をブンブンと振ると立ち上がりお風呂場へと向かった。 盛り塩の効果があるのか気になって仕方がない私はいつもより早く風呂から出た。部屋に入り直ぐに壁に掛けられている時計を見る。 「あと五分」 タオルで濡れた髪を拭きながらベッドに座ると、ちらりと部屋に立てかけられている姿身を見る。 現れる幽霊は、この姿見に映る事もある。 フードを被った姿で俯き佇む幽霊。一体誰なのか。何をしたいのか全く分からない。よくテレビで見るように「~が憎い」等でも言ってくれれば、少しは違うのに。まぁそれを言われたところで、解決できるかどうかなんて分からないが。 「九時だ・・・」 時計の針が九時を指した瞬間、咄嗟につけっぱなしだったテレビを消した。 どうしてその時テレビを消したのか、今でもよく分からない。 シ~ンと静まり返った部屋。ジ~という部屋の電気の明かりの音がやけに大きく聞こえる。 私は、いつも幽霊の姿が映る姿見の方へと視線をやる。どうせすぐに消えてしまう幽霊。視たくないのなら、布団でも被ってやり過ごせばいいのだろうが今回は盛り塩という検証材料がある。どうしても確認しないと落ち着かない。 ジッとベッドに座ったまま、目だけをぎょろぎょろと動かし幽霊の姿を探す。 いない・・・ 姿身にも部屋の中にも幽霊の姿はない。 私は大きく安堵のため息を吐き 「良かった~。由美子の言った通り、盛り塩が効いたのかもしれないわ」 と言いながらテレビをつけるためリモコンをテレビに向けた時だ。 「ヒッ!!」 電源の入っていない黒い液晶画面にその幽霊はいた。いつものようにフードを被りこちらを向いて立っている。小さなテレビなので幽霊自体もいつもより小さくなっているが、全身が映っていた。 今まで見た事のなかった足元が確認できる。白い三本の線が入った黒っぽいスニーカーを履いている。しかし両手は相変わらずぼやけていて分からない。 テレビ画面から目を離せなくなり固まった私。自分が息をしているのかさえも分からない。 次第に画面に映る幽霊の姿が薄くなっていくと、賑やかなお笑い番組が映し出された。 テレビの賑やかな音で我に返った私は、水中から出たかのように激しく息をすると 「盛り塩効かないじゃない!」 と吐き捨てるように言うと、部屋の隅に置かれた盛り塩を睨みつけた。
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