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思い描いたのは……
誰もいない場所。
何者にも邪魔をされない空間。
空を見上げれば、星空が拡がり、どこまでもどこまでも深い闇が続く。
時々、大きな星のかけらなどが飛んでくるが、そんなものは自分には関係ない。自分のいる場所には、なんの支障もないからだ。
もう、どれくらいの間、ここに留まっているのだろう。
いつから、ここにいるのだろう。
そんなことすら、忘れるくらいに、長い間、この場所に、自分はいる。
そもそも、この空間には「時間」という概念は、あまり関係がない。
でも、それでいい。
はるか昔、自分をこの場所へ「転送」させてもらったことは、今も感謝している。
だが、会いたいと思っている……自分を、この空間に転送してくれた「主人」は、すでに亡き人になっていることも……理解できていた。
それは、自分が、主人とは「別の世界に暮らす存在」で、主人はそれほど、長く生きられる種族ではないということだからだ。
自分は、主人との思い出があれば、いい。
自分を認めてくれて、大事にしてくれた「ニンゲン」だからだ。
ヒトという種族……ニンゲンという種族は、長くは生きられない。
自分からしてみれば、なんともちっぽけな、そして脆弱な生き物としか思えない、ニンゲンという種族。
本来、自分が存在していた世界では、ヒトと同じような格好をした種族がいて、でも、それぞれ、違った能力を持っている者もいた。
魔術師、魔法使い、呪術師、医術、騎士、エルフ、人狼など……魔法などを使えない者もいたが、それらも自然と周囲と馴染んでいたように思える。
実に様々な考えを持ち、優しい者もいれば、そうではない者もいる。
利益を求めて、争い、殺し合い、奪い合う者もいる。
「おまえは、私たちのようなニンゲンとは違うからこそ、私たちを遠くから見ているのがいいのかもしれない……というか、そういうものなのだろうな」
主人が呟いた言葉を、自分は忘れない。
「でもね、きっと、おまえのチカラを必要とする者が現れる。それがいつ、どこの時代から、どの空間からやってくるか……いつになるかはわからないが……必ず現れる。それまでは、ゆっくりと自分の時間を過ごすといいよ」
その言葉は、自分の中で、ずっと、小さな「光」となっていた。
いつか、自分のチカラを必要としてくれるニンゲン。
いつか、自分が出会うであろうニンゲン。
「時の流れが止まる空間」で、自分は待ち続けた。
かつて、自分を大事に扱ってくれた、主人が送ってくれた言葉を信じて。
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