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休日の朝。
今日は『リュフトヒェン』の定休日。
毎週第一・第三土曜日と日曜日を定休日としているんだけれど(稀に特例あり)、今日はその定休日。明日は日曜日だから、連休だ。でも、同居人・拓人さんの仕事柄、お店が休みの日でも早起きしたり、そうでなかったりとまちまち。
「ん~……?」
カーテンの向こうが明るいな~と思って、ベッドサイドに置いてあったスマホを手にして、時間を確認すると、午前8時過ぎ。これが、会社勤務時代だったら遅刻だって飛び起きるところだけれど、今はそれもほとんど、ない。
スマホを戻して、ごろんとカラダを仰向けにする。
耳をすませてみても、家の中は静かだ。たぶん、拓人さんもまだ寝ているいんだろうな。フェイドラさんは、駅近くにある居酒屋「ゆきむら」の大将夫婦と一緒に、静岡県焼津市へお出かけすると、昨夜、言っていた。朝早くに出発すると言ってたから、この時間だともう出かけているだろう。帰宅時間も遅いって言っていたっけ。「ゆきむら」の大将は、フェイドラさんのことをとても気に入ってくれているらしい。
「今回は、大将が懇意にしている市場とか、お店などに連れて行ってもらえるそうなので……とても楽しみです」
と、フェイドラさんも言っていた。
うちの店は洋食メインだけれど、最近は和定食も提供するようになった。ニンゲンの食文化に興味津々のフェイドラさんは、大将からのお誘いがとてもありがたいとも。なんだか、ますます、料理の世界にのめり込んでいきそうなフェイドラさん。
広い意味でいえば「異文化交流」みたいなものだよね、これって。
……まぁ、異文化というよりは……異世界、のほうが正しいかもしれないけれど。
などとつらつら、考えながら、起き上がって、自室を出て2階のダイニングキッチンへ降りる。キッチンの片隅にセッティングしてあるミネラルウォーターサーバーから冷たい水を一杯。
「あー、おいしい」
カラダの中にしみていく感覚がすごいわかる。
「あら、葉月さん、おはよう」
「え?」
振り向けば、トライバル柄の暖簾の向こうから、拓人さんがやってきた。今日はオフだから、遅くまで寝ているのかなって思っていたんだけれど、意外と早く起きて来たな。
「あ、おはようございます。早いですね、お休みの日なのに」
「そうね~。でも、ちゃんと休めたわよ」
と言いながら、拓人さんもサーバーの水を飲む。
カーテンを開けて、窓の外の明るさに顔をしかめつつ……話しを続ける私。
「朝ごはん、どうします?パンでも焼きましょうか」
「ありがとう。お願いできるかしら?」
「はーい」
フェイドラさんが先日、作ってくれた食パン、まだあるから、まずはそれを用意して、冷蔵庫の中を見ると冷凍庫に茹でたブロッコリーとカリフラワーがあったのでそれをレンジで温め直す。次に、たまごをふたつ、フライパンに割り入れて、ソーセージを4本、一緒にIN。少しだけ水も入れて蓋をする。
ふわっとコーヒーの香りも。あ、拓人さんがコーヒーの準備をしてくれているんだ。
お皿を2枚、用意して、それぞれに温め直したブロッコリーとカリフラワー、作ったものを盛り付けて、焼いた食パンを別皿にのっけて……朝ごはん、完成。
「手際いいわよねぇ」
コーヒーカップを私の前に置いてくれながら、拓人さんが言った。
「ひとり暮らししていた時は、こんな感じの朝ごはんがほとんどでしたから……」
冷蔵庫の中から、マーガリンと、これまたフェイドラさんお手製のいちごジャムを取り出して、テーブルの真ん中に置いた。
「いただきます」
「いただきまーす」
その後の会話は、特筆するべきものでもなく、雑談だ。
拓人さんが関西へお仕事へ行っていた間のお店のこと、常連さんのこと、ふらっと立ち寄ってくれた、拓人さんのお仕事仲間である谷山さんのこと、あやのさんと話したイメージングカードの話しとか……
「あら?そういえば、マカニはどうしたの?」
マカニとは、しばらく前に、あやのさんに描いてもらった、私の「言霊師」としてのチカラをコントロールするために用意された、複数のカードの一枚「風」のことで、拓人さんのチカラと私の拙いチカラが一緒になったらしく、最近になって「妖精」のような姿になった子の名前だ。
「あー、今日はまだ起きてないですね……まぁ、そっとしておいてあげています」
なぜか、マカニだけが妖精の姿になっていて、私のそばにいることも多いのだが、いつもそばにいるわけではないらしい。まぁ、そのあたりが妖精っぽいなぁとも思っている。気まぐれってやつかな。
「拓人さん、コーヒーのおかわり、注ぎましょうか」
「あ、嬉しいな。ありがとう、いただける?」
立ち上がって、コーヒーメーカーで温めていた分をふたつのカップに分けてから、再び、テーブルに戻ってくると、
「ね、葉月さん、今日はふたりでおでかけ、しましょ」
と、拓人さんが言った。
いきなりだったので、ちょっとびっくり。
「え、どうしたんですか?」
「ん~?特に理由はないけれど、たまには、仕事以外で、ふたりでおでかけしてもいいかなって」
そう言われれば、拓人さんと一緒に出掛ける時って、彼のうたい手としての仕事の時やら、言霊師としての仕事の時がメインだった気がする。プライベートでお買い物で出かけたのは、あまりないなぁ……とも気づいた。
テーブルの向こうで、拓人さんはニコッと笑う。
実を言えば、ちょっと嬉しかったりもするんだよね。
だって、拓人さんとお出かけって、これって……「でえと」だよね?
あ、でも、私だけがそう思っているだけかもしれないけれど、でも、これって……しかも、拓人さんからお声がけしてくれたっていうのが、とっても嬉しかったんだよね~。
そんなわけで……
拓人さんと私は、一緒にお出かけすることになった。
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