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風が吹き抜けていくと、そこかしこから擦れ合う葉音が耳をくすぐる。
視線を落とせば、地面では木漏れ日がチラチラと揺れて目を楽しませてくれた。時間も時間のため、それなりに熱いはずだが、木陰にいるせいか大したことはなかった。
「何を黄昏れている」
地面を映していた視界に靴が覗き、次いで慣れ親しん声が耳に届いた。
「……自由時間なんだから、誰が何を見て黄昏れようとかまわないでしょ」
言いながら、声の主へ視線を向ける。予想どおり、そこには偉そうに顎先を上げて佇む幼馴染の姿があった。
「何処へ行く」
森の方へと足を進めると、三国はごく自然に俺の横へ並んだ。どうやら着いてくるつもりらしい。
「ちょっと散歩」
「教師があまり深く行くなと言っていたが」
「わかってるよ」
今日は林間合宿2日目。
昼食後、班ごとの軽いスタンプラリーを終えた俺たちだが、今は指定の時間まで自由行動となっていた。
こんな何も無いところで自由行動を許されたところで、何をしろというのか。
とはいえ、わざわざ森に来ている手前、ただ部屋にいるというのも勿体なく感じた俺は、とりあえず外へ出ることにした。しかし、なんとなくで外に出てみたは良いものの、やはり特にすることもなかった。
歩いている際、それとなく周りを観察してみたが、おぼっちゃまの集まりの割には、殊の外楽しんでいるようだった。
具体的に何をしているのかまではよく分からなかったが、各々携帯を持ち寄って集まり、ワイワイ楽しそうに話していた。ギリギリ電波が届く位置でやっているあたり、なにかのゲームか?
ひとつ不思議なのは、わざわざ電波の届きづらい森の方でやっていることだろうか。立って携帯をいじっているだけなら、涼しくて座れるコテージの中でやればいいと思うのだが。森に近いこちらでは回線も遅く、やり辛いだろうに。
「急に散歩の気分になったのか」
「…………さあ。急でもないけど」
先程までの事を思い出していた俺は、スタスタと歩みを進めながら適当に返した。
しかしと言うべきか、それでは満足しなかったのか、隣からその先を促すような視線を感じてため息を着く。
「まぁ……なんか、視線が鬱陶しかったから」
それに気が付いたのは、自由時間になって程なくしてからだった。
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