1295人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
俺は副会長とのティータイムを適当なところで切り上げると、お茶のお礼も忘れず言ってから生徒会室を出た。
ようやく荷物持ちから解放された両手に、おかえりを言ってやれる。
右手をカーディガンのポケットに突っ込めば、指先にはパリリと軽やかな音を立てる包みがあたり、俺はそれを意味もなく弄った。
……飴まで貰っちゃったな。
ポケットの中でパリパリとくぐもった音を立てるそれは、透明な包みに閉じ込められたガラス玉のような飴。
ポケットから取り出し、窓から差し込む光に透かしてみれば、キラキラとエメラルドのように煌めいて、まるで本物の宝石みたいだ。
「メロン……マスカット、いやミント……? キウイとか」
……ここまで緑色が濃いと何味かわからないなぁ。
いっそ抹茶とかなのかな? いや、透けてるから緑茶……?
味はともかく、そもそも飴玉が緑色なのは偶然か。
それとも、俺の目の色に因んでなのか。
真意は分からないが、とにかくあの副会長が『秘密ですよ』とか言って渡してきたのが、このキャンディ包みされた大変ファンシーな飴玉である。
なんか……副会長って、意外と可愛いところあるよね。
そんなことを考えながら廊下を歩いていれば鐘が鳴った。
今のは授業終了の鐘だったらしく、休憩時間になった生徒たちが各々の教室から疎らに出て来た。
視線は痛いほど感じるしヒソヒソ声も聞こえるが、あからさまに騒がれる事はない。
許容範囲、俺は内心で偉そうに呟くと飴玉をポケットに入れ、先程と変わらず教室へと足を進めた。
この学園の特色を理解している人間からしてみれば、もしかしたら不自然に思うかもしれない。
『副委員長候補に名前が上がるくらいには顔が良く、頭も家柄も申し分無いはずなのにどうして騒がれないんだ』と。
けど、じつは単純な話だったりする。
これは俺が過剰に騒がれるのが好きじゃなかった事と、そんな自分の周りには俺の意を汲んでくれるような気遣いのできる人種が多かったというだけの話だ。
俺の属しているB組の生徒なんかは特にそうで、不躾にガン見してくる人間なんて数える程しか居ない。
……いや数える程には居るんかい、と思うかもしれないが……残念ながら不特定多数が集まっている以上は、ね。
「まぁ……仕方ないよね」
最初のコメントを投稿しよう!