織部色の人生

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   ボタンはちょっと寒かっただけだし、手遅れとは何の話をしてるんだこの歩く18禁。  まさか誤解を招くような事を言いふらしながら、校内を駆け回ったんじゃないだろうな。それなんて罰ゲーム?  頼むから幼馴染の俺ですら首を傾げたくなるような、訳の分からないプレイ名を無駄に大きな声で垂れ流して廊下を練り歩いたりしていない事を祈る。  これ以上俺まで誤解されるのは御免だ。 「いいいたたたたた。いたた、痛い、痛いぞ、織部」 「償うといいよ」 「何をだ」  本当に分からないのかこのアホは。  一応、三国なりに心配してくれたのは嬉しいが、あの誤解を産むテンションだけがいただけない。  何度も言うが、帰りが遅いからとわざわざ探し回ってくれたのだけはありがたいのだが。  ……だがしかし、三国が騒ぎながら探すと自動的に公開処刑と化すところがなんとも素直に喜べない。 「織部様がご友人とじゃれてる……」 「……怒ってる織部様っ、レアだレア!」  聞こえて来たのは、いつから居たのか教室の外で野次馬をしていた生徒達の声。  レア。  ……レア、ね。  生徒たちの言葉を反芻し、確かに今までの……中等部までの俺ならありえない事だったかもしれないと僅かばかりの共感をする。  俺は三国が高等部から外部入学して来るまで、こうしてある意味“雑”な態度で接する事ができる相手がいなかった。  当の三国は、自分の頭部を捕まえて離さない俺の腕を掴んでみたりタップしてみたり、時折全く関係ない事を喚きながらギブアップを主張している。  「なんて仕打ちだ……」などと嘆く三国に、それはこっちのセリフだと心の中で返しつつも、手のひらの力を弛めてそのまま三国の頭を軽く混ぜるように撫でた。 「なんだ急に。しおらしいぞ、もっとやれ」 「…………」  わざとらしく不満そうな顔で訴えてくる三国が変態くさい。……いや、紛うことなき変態だったか。  ミシ…… 「いいだだだ、わ、わかったわかった。望みどおり俺の体を差し出そう」 「……は?」 「償いとやらをしてやろうと言っている。煮るなり焼くなり縛るなり好きに頂けばいい」  三国の特殊な思考回路は、いつだって限りなく普通である俺の予想など、遥か上空を飛び越えてくる。 …………いや、て言うかそもそも、こいつをド変態だと仮定した場合、全く償えてなくない?  だって、 「ご褒美にしかなってないよね」 「何故気付く」 「…………」  ……阿呆なのか?
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