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* * *
寮までの帰り道、俺は抑えられた音量でコソコソと話す声を雑音として処理しようと努めて余所事を考えていた。
そんな中、両腕に不意に温かいものが絡められ俺は僅かに目を丸くした。
「「ヨリちゃーん!!」」
男のものとは分かるが、やや高めの明るい声。
両側から肩あたりにスリスリと頭部を擦り付けられるが、それがなんだか小動物っぽくて愛想笑いではない笑みが零れた。
「ヨリちゃん今日生徒会室来たでしょ!」
「うん。副会長しか居なかったけど」
腕に巻きついていたものはいつの間にか下がり、今度は両手を握られて左右から俺を引っ張りながら歩き出すよく似た二人。
副会長しか居なかった、という俺に「「知ってるー!」」と声を揃えて口を尖らせる彼らは生徒会役員だ。
「ちょうど僕たちが居ない時に来るなんて酷い!」
「セイちゃんだけずるいよ!」
生徒会庶務を務める栗之宮 旭、陽。
二人が登場した途端それなりに数が居た通行人の理性のタガが一斉に外され、黄土色の歓声がそこかしこで上がって遠慮のない視線が増えた。
二人は俺と同じ一年で、言わなくても分かるかもしれないが双子だ。同じ色のふわふわとした茶髪は幾分低い位置で二つ、柔らかそうに揺れていた。
「ねぇ、僕らも一緒に帰っていーよね?」
「陽ってば、断られても着いてっちゃう癖におかしー」
「旭だってそのつもりの癖にー」
俺の体を挟んで顔を合わせるとクスクスと笑い出す仲良し双子。
「ね?」
「良いよね?」
「「ヨリちゃん」」
「もちろん」
甘い黄色の瞳を輝かせ「やったー!ありがとう」なんて、無邪気にはしゃぐ双子の可愛らしさは俺の頬すら自然と緩める威力を持っていた。
……ので、この学園に完全に染まりきっているそこらへんの生徒たちの中にはノックアウトされる人間も出てくる訳で。
そこかしこで質量の多い何かが落ちるような鈍い音が聞こえてそちらを見れば、何れも大柄な生徒たちが倒れていた。
可愛かったんだよね、わかるよ。
俺も可愛いのすきだし。
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