1299人が本棚に入れています
本棚に追加
***
昼休憩の時刻となり、扉を開けると聞き取れない複数の声がガヤガヤとした雑音として耳に届く。
公立の学校では考えられない程に広いこの学園の食堂は天井も高い。
「空いているな」
「そうだね。何処に座る?」
「奥だ。手前は役員が通ると面倒だ」
食堂に入った途端、噛み殺したような悲鳴がそこかしこで上がったが、あちこちから視線とヒソヒソ話のプレゼントをされたくらいで、概ね静かに食事の席まで到着できた。
……が、それを見た三国が「相変わらず、誰彼構わずよく調教しているな」なんて、誤解を招くような事を平然と口走ったので腕を抓って黙らせるのも忘れない。
「三国、学園生活はどう?」
「ふむ……まぁ、慣れたものだな」
三国がタブレットでの注文を終えるのを待ってから問いかければ、三国はひとつ頷いて瞼を伏せた。
「それなら良かった。そういえば入学式からもう一ヶ月は経つしね」
「あぁ、早いものだ」
フッと力を抜いて笑う姿に周囲の生徒から短い悲鳴のような歓声が聞こえたが、あえて気にしていない振りをして俺も微笑み返しておいた。
ほんと、相変わらず顔が良いな。
三国は口調や思考回路こそちょっとアレだが、紛うことなき美男子だ。
口は悪いし……ていうか偉そうだし、発言は突飛で声は大きいし────と上げだしたらキリが無いが、顔はここの生徒達に好まれそうな美形っぷりなのだ。
ややつり上がった黒色の瞳や真っ直ぐで固めのしっかりとした黒髪は、三国自身を禁欲的に見せる。言葉にするなら、鋭さを持った和風美男子、と言うのがしっくりくる。
まあ、見た目“だけ”を言い表すなら、の話だけど。
「しかし、これ程そこかしこに無駄金を使った空間と言うのは……なかなか慣れないな」
些か失礼なことを考えていると、その三国が酷薄そうな唇を控えめに開いてしみじみと言った様子で真面目な事を呟いた為、俺の意識はそちらに引っ張られる。
「それは……まぁ、そうだね」
そこは同感だ。
三国とはこの辺りの感覚だけは合うから楽……って、そうじゃなかった。
そもそもこの感覚は三国と幼少期から交流があったために、俺が影響を受けてなったものだ。
合うも何も、元は三国の感覚だったっけ。
最初のコメントを投稿しよう!