織部色の人生

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   三国率いる俺の親衛隊の特徴としてまずひとつは圧倒的に穏健派が多い事だろう。……が、『ただし腐男子率が異常』などと言う、なんとも不安を誘う注意書きがついてくる訳だが。  とはいえ、有害なオープン腐男子以外の……曰く『ヒッソリ楽しむ派腐男子』だったり、真っ当に慕ってくれている親衛隊の生徒たちは、基本的に自分の欲よりも俺の意思を尊重してくれる善人が多い。加えて、率先して周りが騒がないように気を使ってくれたりするので助かっている部分も多い。  事実、親衛隊が作られた当初にした『出来るだけ普通に接して欲しい』という俺のお願いも戸惑ってはいたが『出来る限りでよければ』と快く頷いてくれてたし。  ただ──……ひとつ、困った事がある。  隊員の一部……いや、隊員以外からも度々されている誤解があるのだ。  それは『三国 大和は織部 依臣を()()()()好いており、猛アタックをしている』とかいうトチ狂った誤解である。  迷惑なことに応援される事もしばしば。……主に腐男子達から。  曰く、『もっとやれ、メシウマ』とかなんとか。  しかし、実は彼ら腐男子というカテゴリに属する人間に関しては、俺たちが本当はただの幼馴染であると充分に理解している者が多い。  ならば何故と思うかもしれないが考えても見てほしい。  相手はBのLが発生しようものならハイエナの如くあちこちへと喰らいつく害獣だ。そこだけは自粛(ひっそり)タイプだろうが開放(むきだし)タイプだろうが関係ない。  たとえ事実無根でも視覚的、会話的にBLならばお得意の妄想力とやらで、メシでもパンでもパスタでも美味しく頂けてしまうのだろう。本当にタチが悪い。  三国曰く、自分は『幼馴染(依臣)マニア』なのだそうだが……正直これに関してはよく分からないながら、確かにと変に納得してしまう部分があった。  なぜならこの三国という男、事ある毎に俺の隠し撮り写真や捨てようとした文房具や服を…………ん?  マニアじゃなくてストーカーだったかもしれない。  まぁ……いっか。  三国だし。  俺は未だに目の前でSMについて、訳の分からない不満を垂れる幼馴染をじとりとした視線で見詰めた。  この変人は入学当初から率先して周囲に『俺×三国or三国×俺』のBLネタ提供している節があった。  聞けば、そうする事で代わりに腐男子達から俺のレアショットとやらを無償でゲットできるらしい。  三国に関しては今更だが、腐男子達は一体何処から入手しているのだろうか。切実に怖い。  ……未知の生き物(ふだんし)だから何でもありなのだろうか。  腐男子とは初等部と中等部の移り変わりを境に徐々に増え、存在が確認されていった生き物だ。……あぁ、一部間違えた。正しくは増えたのではなく、元から居たモノが進化しt……いや、退化した生き物だ。  俺としてはこれでも慣れてきた方なのだが……正直、あのG並みの執念でBLを糧に生き残る彼らの事をガン無視できるほどベテランにはなりきれていない。  “ドMの親衛隊隊長”。  それは他でもない俺の幼馴染を指す。  一般生徒達にもこれが浸透しているがためにどれだけ迷惑を被った事か。  俺が無理やり三国の部屋に引きずり込まれるたび、どこからともなく現れた腐男子達が興奮して声を大にして喜び、『めくるめくSMかけ算☆in愛の巣!』などというとんでもない妄想の餌食にされまくった。  て言うか。  そもそも『隠れS』だとか一部生徒(腐男子)達に誤解(妄想)されている俺が問答無用で引きずり込まれている側なのに、何故その“めくるめくSMかけ算”とやらが成立するんだろうか。意味がわからない。  曰く『和風美人の襲い受け滾る』。  ……余計わからなくなった。 「ところで織部。今日はまだ頭を掴まれていないのだが、あと何分……いや、何時間我慢して見せれば褒美にシてくれる?」  ニヤリと目元を細めて笑って見せた三国に絶句した。 「っ…………ぉ、ま」  微笑を作るために釣り上げていたはずの口の端が痙攣する。  お前はまた、誤解を招きそうな事を公共の場で……嫌がらせか? 嫌がらせだろ。知ってた。 「「来、たァ──……!!」」  数人の腐男子がそこかしこで悲鳴……いや、歓声を上げた。  何も来ていない。  あぁ……ばかやろう…… 「織部様が三国様にだけ見せるSっ気……誰得俺得ktkrぺろぺろぺろ」 「幼馴染でっ! Lo・ve♡なんですね!? ナニコレむっしゃむしゃじゃん!! 美人×美人ありがとう2.5次元!!」  俺たちは三次元だ。  …………あぁもう、ほら。お前がそうやってこんな時だけ色気撒き散らすから無駄に腐男子を喜ばせるんじゃないか。  俺は知ってるからな、お前がこういう悪ふざけをする時の大半は不特定多数の他人がいる時だって。  ……おい口隠すな。肩笑ってんだよ。 「三国はMなの? Sなの? ほんと、どっちかにしてくれないかな」 「どちらも捨て難い。云わばNだ」 「それは無い」 「な、なに……?」  ピシャリと言い放てば、わざとらしく戦慄く三国。  どちらの要素もあるからって、こいつをN(ノーマル)にカテゴライズするなんてとんでもない。Nにしてはあっちもこっちも馬鹿みたいに要素を持ちすぎだ。  こいつをNと分類するくらいなら、いっそ新しいカテゴリを作るべきだ。
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