変態と林間合宿

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依臣side──── * * *  日が落ちて間も無い現在。辺りは薄闇に染まり、優しい灯りがそれぞれのロッジ内を照らす。  光漏れは淡く、夜へと移ろうキャンプ場に物寂しい影を作るが、そこかしこから響く就寝時間まで与えられた自由時間を謳歌する生徒たちの声は楽しげだった。  そうして暖かな灯りが目立つようになり、夜も更ければ、例に漏れず俺たちのロッジも、賑やかな雰囲気に包まれていった。 「お待たせー! 貰ってきたよー!」 「あっ、ちょっと矢倉くん走ったらこぼれるよ!」    就寝まで自由時間には、教師がキャンプ場の数箇所であたたかい飲み物の配布をしている。  星野瞬く夜。夏になり切らない肌寒い夜は、暖かい飲み物片手に、1年間共に過ごす新しい仲間と和気あいあいと過ごす────的な、感じになることを期待しているとかなんとか。ちなみに情報源は東屋先生だ。あのいい加減な保健医である。 「氷室くん、草薙くん、織部様。どうぞ」 「で、ハーブティー組はこっち置くなー」    取りに行ったのは矢倉くんと、C組の2人。  C組2人は純粋に立候補、残りの1人は曰く『なんか美味しい(イイ)モノが見れる予感がっ! カメラ持ってくんで2人はそのまま、おれはサプリ的なポジションで着いてくね!』等、なんだかよく分からないがとりあえず不純な動機で立候補していた。  C組の2人と矢倉くんはハーブティー、氷室くんと草薙くん、それから俺の3人はココア。ただ、正直矢倉くんが一番意外だった。……犬みたいな顔して『おれココア!』とか言いそうなのに。 「ド偏見w」  ……口に出てたらしい。最近多いな。  けどまぁ……うん、矢倉のせいだろうな。あ、矢倉“くん”。 「…………」  ……いや、もう矢倉でいいか。  なんせ今までの図太さを見るに、取り繕いの必要も無さそうだし。 「あぁ……ほら、“矢倉”って常に犬耳としっぽの幻覚つけてるし」 「ファっ!? ちょ……ェ、マッテ、呼び捨てイベっておれが回収するの!? 推しから呼び捨てとかご褒美以外の何物でもないけど、おれ大丈夫? 夜道気をつけた方がいい?? …………え、ていうか耳としっぽ? おれにそんな幻覚作用が……??」 「あと、鼻血とヨダレの幻覚も」  「ァ、それは現実ッスね」  知ってた。  その後も「アッ、容赦の無さが!! 呼び捨てイベントを境にオブラートが今まで以上の剥がれ方をっ!」とか嘆いたかと思えば、「でもおれ、今推しに罵られてる……」なんて急に小声になったりと、また情緒不安定を引き起こす矢倉。メンバーからは微妙な視線が向けられていた。 「…………」 「草薙くん……?」 「なんか、仲良いな」 「ん……?」    ……うん。何処が??  一体、草薙くんは何を言ってるのか。彼は何かを明確に勘違いしているようだ。  そんな草薙くんと話していれば、「ァ、痛いっ! ジェラッとした仄暗い視線がっ、あ"あ"っあ! アチコチから……っ!」とか、なにやらまた騒ぎ出した矢倉の声が耳に届いた。が、なんだかもう既に面倒臭くなって来たので、放置してココアを一口。あ、これ結構ほろ苦だ。  最近は興奮度合いが振り切っているのか、彼は瑞稀くんとの廊下での1件があって以降、全く慎めていない。なんなら、公共の場でドM発言をする三国なみのウザさだった。  そのせいか、なんと言うべきか……そうだな、今までの状態は()()三国を君付けで呼んでいる感覚に近かったのだ。 ……うん、薄ら寒いな。呼び捨ての方がしっくりくる訳だ。    
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