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日が落ち冷たくなった風が、サーッと微かな音を立てて通り過ぎていく。
控えめな灯りに照らされた薄暗い中でも、カップから立つ湯気が風に攫われていく様が僅かに視認出来た。
「────……俺はなんで草薙くんがアレで仲良くしてるように見えたのか不思議で仕方がないよ」
「いや、その……なんか、ごめんな?」
「気にしてないよ」
「マジごめん」
別に気にしてないって。いやほんとに。……多分。
俺たちは今バルコニーで2人、ココアを飲みながらお喋りを楽しんでいた。
「あー……にしても、なんか疲れたよなー」
「そうだね……でも意外だよ。草薙くんっていかにも『スポーツ万能!』って感じなのに」
「あーー偏見だ、偏見」
「そうかな」
草薙くんも気まずく感じていたようで、すぐに話題は変わった。不自然ではあったが、話が逸れるのをお互い望んでいた事もあり、ここぞとばかりにその場の雰囲気も変わった。
「あー……いやでも、確かに自分で言うのも何だけど、体は疲れてない、か? …………けどなぁ、なんて言うのか……」
「そうだね…………多分、気疲れじゃないかな? やっぱりいつもと違うから」
途端パッと顔を上げ、こちらを見た草薙くん。薄明かりに照らされたその表情には、何処かスッキリとした色が滲んでいた。
「それだーー。なんか、スタミナじゃないとこがゴリゴリ削られる感覚っていうか」
「あ、思ってたよりダメージ受けてる。草薙くん、繊細だったんだね」
「お、なんか貶してね?」
「あはは、いやいや。まさか」
軽口を叩けば、草薙くんもわざとらしく俺の顔を覗き込んでくる。こちらも笑いながら肩を押し戻して背中を軽くタップすると、草薙くんはいつものようにニッと笑ってあっさり離れた。
「……今日は濃かったね」
「けど、楽しかったな」
「うん」
「明日も楽しみだなー。ほら、うちの班って結構賑やかじゃん?」
「ふふ……そうだね」
“賑やか”とは主に矢倉くんの事を言っているのだろう。やはり同じ人物を思い浮かべていたのか、草薙くんの顔を見れば困ったように笑っていた。
……当の本人は、恐らく今も室内ではしゃぎ倒していることだろう。
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