変態と林間合宿

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すみません、切れなかったので長いです。 ────────────  バルコニーに来る前、矢倉の言う『呼び捨てイベント』の後のこと。  再び喧しさを発揮した矢倉を放置……いや、意外と仲良さげな様子を見せていたC組二人へと押し付けることに成功した俺たちは、ナチュラルにバルコニーへと避難し、平和に会話を楽しんでいた。   「あ、そうだ」 「ん?」  大事な事でも思い出したかのように、不意に体を起こした草薙くんに内心で首を傾げる。  そちらに視線を向けるも、言いづらそうに口ごもる草薙くんに脳内の疑問符が増えた。どうしたんだろうか。 「今日の…………えっと、確か“春崎”、だっけ?」 「……あぁ、うん。あと三澤くんだったかな」 「あのさ、あれって本当に大丈夫なやつなのか……?」  ……至極真っ当な心配のお言葉を頂いた。  確かにアレは心配にもなるだろう。  三国のドM発言で慣れている俺ですら、本物の変態とはこんなに執拗いものなのかと衝撃を受けたくらいなのだ。  ……いや、ちょっと待て。  三国は“振り切っている”と言っていた気がする。本物の変態の中でも、彼は間違いなく特殊な例のはずだ。  あのしぶとさが一般的な変態の“普通”である訳がない。……いや、変態の普通なんて俺は知らないが。  ────しかし、だ。  俺は初対面で過剰に反応し、逆に餌を与えてしまったと言う反省を踏まえ、その後は普通に接していたはず。……だと言うのに、思えば後半はむしろエスカレートしていた気がする。これは明らかにおかしい事ではなかろうか。  意識を過去へと飛ばし不思議に思っていれば、草薙くんから「あー……結構顔に出てたよな?」と衝撃の事実を告白され、更にショックを受ける事になった。  ……嘘だ、あんなに必死で繕ってたのに。 「……ちなみに、その『顔に出てた』って?」 「あ、いや、なんて言うか……いろいろ死んでた? みたいな」 「死ん……どこらへんが?」 「え? えー……っと。目、とか……」 「め……」 「いや、やっぱ雰囲気……? 言葉とか駆け足気味だったし……早く話終わらせたがってるように見えた、のかも?」  まじか。  あの純粋な草薙くんにもひと目でわかるほどの表情や態度をしていたのか。……不純な変態にはさぞかし素敵なご褒美だっただろう。屈辱。  変態への不快感とは、俺の表情筋をもってしても容易に隠せるものでは無かったらしい。なんて厄介なんだ。   「……その、まじで困ったらちゃんと言えよ。俺も助けられそうなら力になるしさ」  冷めきったココアを手に遠くを見つめていれば、草薙くんが肩を叩いて慰めてくれた。  ……浄化された気がする。今日、得体の知れない変態に踏み荒らされた俺の心が。  だから爽やか王子とか言われるんだこの人は。……まぁ俺としては、王子というより『気の良い近所の兄ちゃん』的な比喩の方が似合うと思うが。品がいいと言うよりは、圧倒的に親しみやすい。    自覚は無いかもしれないが、彼はノリが軽めな割に相手によって結構調子を変えている。当然……ではないが、人に親近感を覚えさせるのが殊更上手い。  そのくせ線引きも巧みで、必要以上に深入りはしないため、俺のような捻くれ者からしても煩わしさが欠けらも無い。  とにかく、色んな意味で丁度いいのだ。 「……ありがと。草薙くんも困った事があったら言ってよ。俺も力になるから」 「っ、わかった。じゃ、約束な?」    全く、好ましい性格をしている。  ……不本意だが、三国が腐男子的な意味で草薙くんを俺に宛てがいたがるのも理解できないでもない。なにせ、彼は何処に出しても恥ずかしくない人種なのだから。 「────おい、草薙」  不意に草薙くんを呼ぶ、無愛想な声がかけられる。  二人して振り返れば、室内から漏れる光に背後を照らされた氷室くんが佇んでいた。  逆光で見づらい中サッと観察してみれば、すぐに風呂上がりだと分かる。彼の毛先は湿って束状になっており、最低限、根元を乾かしただけで出てきたようだった。  前髪の分け目は無くなり、鋭い目が見え隠れする様は、何となくいつもより幼く見える。 「いつまで話してる」 「氷室……? どした?」 「どうしたじゃねえ。とっとと風呂済ませろ。お前ら以外とっくに終わってんだよ」  露骨。  また草薙くんだけに話しかけている。そして、俺は有無を言わさず最後らしい。嫌われてるねえ。まぁ、どうせシャワーだし順番なんて別にいいけど。  ……ちなみに、C組の二人は疲労で既にぐっすりらしい。遠足かな? いや、まぁ遠足か。 「……あと、お前」 「ん?」    氷室くんはスっと視線をこちらへ寄越すと、やはり嫌そうな顔で俺を呼んだ。  俺には声をかけないで戻るだろうと思っていた為に、完全に素で反応してしまったが、まぁ誤差だろう。幸い、氷室くんにも気にした様子は無い。  ただ……なぜ俺の名前は呼ばないのか、という点については多少の不満が残るが。  しかし、要件はなんだろうか。  氷室くんがわざわざ声をかけるくらいだから、俺も少しは内容が気にな────…… 「部屋でうぜえ顔した矢倉が待ってる」  最悪。 「あと、『聞きたい事がいっぱいある』らしい。髪も乾かさねえで転げ回りやがって……喧しいしうぜえ。早く入ってアイツ何とかしろ」  ……コイツは悪魔か?  氷室くんは俺の微かな期待を裏切り、しれっと不幸を運んできた。 ─────────────────────────  【裏話】  氷室視点は出しませんのでおまけ程度に……  (※鋭い方はお察しかもしれない)  氷『髪も乾かさねえで』  →矢倉が風邪をひくかもしれないという心配からの言葉。  氷『とっとと風呂済ませろ』・『早く入ってあいつ何とかしろ』  →日が落ちきって外は肌寒くなったはずなのに戻ってこない二人を部屋に入れる口実。  + 依臣が問答無用でラス風呂にされている理由はお察しです。  「うあ……細けえ」と引かれたことと思いますが……伝わりづらい萌えポイントなので一応……((コソッ
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