変態と林間合宿

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 元々森の方に行くつもりでいた俺は、携帯を置いてからコテージを出た。しかし、そこでやかましい視線が纏わりついてくるのに気が付いた。    なんなんだと疑問に思いつつも、明らかに着いてきそうな匂いを醸し出している生徒には、都度念入りにこちらから『着いてくるな』という視線……いや、思念を送りつけながらここまで来た。    しかし、木々との境あたりに着くも、視線は増える一方。日頃の申し訳程度の遠慮すら見る影もない。俺は来る際に周囲へ向けた思念が、なんの意味もなさなかった事を知った。  結局、俺は遠巻きに群がられてしまったのだ。    ただ、生徒会役員である七草くんや栗之宮双子は、もっと酷いだろう事を考えると、俺はまだマシだったのかもしれない。自分はただの役職持ちで良かったと、ため息をつく。  勝手に少し同情しつつも、俺は無性に瑞稀か佐伯くんを連れてきたくなった。    自然は俺に多大な癒しを与えたが、別の存在がそれ以上のストレスを与えて来るのだから敵わない。  今の俺にはセラピーが必要だった。 「あぁ、自由時間だからだろう」 「はあ……?」  俺は何を言っているんだと言わんばかりに、機嫌悪く返した。  ただでさえ道中で湧いた春崎(へんたい)に、やむを得ずまたご褒美を与えてしまってゲンナリしているというのに。また三国は当然のような顔をして、一人納得している。    今度は俺が話の先を促す番だった。   「……と言うと?」 「『自由時間は、誰が何を見て黄昏れようとかまわないもの』……だったか?」 「…………」    ……うるさ。  正直、その通りと言えばその通りだから、余計に面白くない。   ……ただ、ひとつ言いたいのは、観察対象に生身の人間を含まないで欲しかった、ということくらいか。   「お前が瑞々しい自然の中佇むさまというのもまた、趣があっていいのだろうな」 「おもむき」  俺に趣を感じる……?  普通に訳がわかんない。    俺が困惑気味に呟けば、三国は満足気にひとつ頷いた。 「黄昏れる“高潔な美青年”がいれば、見蕩れるのも無理は無いだろう」 「ごめん。一応聞くけど、それ誰のこと?」 「織部だが」 「また身内の贔屓目か」    お前……まさか、また俺の知らないところで、恥ずかしい(そういう)発言ばかりしてないだろうな?  ようやくドMネタに飽きてくれたと思って安心していたというのに、うちの幼馴染はまだ問題を抱えているらしい。 「……ほんと、勘弁してよ」
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