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* * *
「────……い、おい、おい三国!」
「っ? どうした」
あれから様子のおかしかった三国は、先程から呼びかけてもこちらの声が聞こえていないようで全く止まる気配がなかった。
そんな中、ようやく声が届いたのか急に止まった三国にぶつかりそうになりながら、ほっとしてため息が零れる。
「はぁ……どうしたじゃない。なんで止まらない」
「…………なんだ?」
「ったく…………いいから戻るよ」
自覚は無かったらしい。
とにかく、正気に戻って良かった。
「キャンプ場から随分離れた。早く戻──……」
────……ぽつり。
一粒の水滴が頬に落ちた。
ぽつ、ぽつぽつ────……
そして、一つ目に続くように水滴は増えた。
ザ、ザーー────……っ
「「…………」」
降り出した雨はあっという間に勢いを増した。
髪はべったりと額に張り付き、服も濃い色に変わった。
2人ともびしょ濡れだ。
「最悪だね」
「……悪い」
心の底から出た声だった。
「…………仕方ない。ここからじゃ戻るより雨を凌げる場所を探す方が早い」
俺はもと来た道を諦め、何処か雨が凌げる場所を探すことにした。
オリエンテーションの際にも思ったが、この森は結構道端に休憩スペースが設けられている。その中には屋根があるものもいくつかあった。
運が良ければ屋根のあるものを見つけられるだろう。
「……全く、この手の暴走の方がタチ悪いな」
「あぁ、少しぼーっとしていた」
「だろうね」
これなら他の暴走の方がまたマシだった。
無言で森の中を進んでいくのは怖すぎる。二度とやらないで欲しい。
ふむ、とひとつ頷いた三国は、おもむろに腰へ巻いていたジャージを解くと、それを俺に押し付けてきた。
……おい、なんだこれは。
「…………いや、何」
「使え」
「もう着てるだろ。お前が使え」
「多少の雨避けにはなる。使え」
機嫌悪く返した俺に、三国が食い下がった。
いつもの事だが、なんとも執拗い。
要らないと何度言っても、押し付けられるジャージ。
こうしている間も、雨は変わらず降り注いでいた。
俺は一つ息を吐き出すと、諦めてジャージを受け取った。
しかし、服は既にびしょ濡れである。
肌に張り付くベタベタとした不快感に眉を寄せつつ、受け取ったジャージを頭から頭巾のように被った。
若干手遅れ感があるが、無いよりはマシである事に違いはない。
……とはいえ、なんてザマだろう。
「……本当に悪かった」
俺がげんなりしていると、殊の外心のこもった謝罪がかけられた。
そちらを向けば当然三国がいる訳だが、いつもと違って本当に申し訳なさそうな眉の下がり方をしていた。
珍しくしおらしい三国が新鮮で、俺はひとり微妙な気分になった。
「まぁ、いいよ…………風邪ひいたら責任取ってもらうから」
これほど分かりやすく凹まれては、流石の俺も勢いが萎む……なんて思ったが、そんな花畑な思考回路は次の三国の発言で跡形もなく弾け飛んだ
「…………なんだ、如何わし「くねぇよ」……おい、口が悪いぞ」
俺は食い気味に否定した。
お前はもう少しその思考回路が何とかならないのか?
そしてこういう時、三国に対して口が悪いのは本当に今更なことだった。
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