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────ここは私立緑ヶ丘学園。
毛ほども有難みを感じない程にかき集められた、夥しい数の名家の子息らがこぞって通う、格式高い初・中・高一貫のエスカレーター式の学び舎だ。
ただでさえ学費が高いだけでなく、あちこちから寄付金も寄せられる為、学園内の設備は申し分ないどころか振り切って過剰である。
クラスはA、B、C……と続き、振り分けはランダム。
特待生制度もあるが、特にどこか決まったクラスに振り分けられることも無い。
幼少期から同性だけに囲まれる学園生活。
幸いなことに初等部は通いだが、中等部からは全寮制になり更に閉鎖的な環境での生活を余儀なくされる。
そして、それがどんな効果を生むのかと言えば、それはもうご覧の通り。
多感な時期を特殊な環境で過ごした結果、身近な同性への色恋に目覚める人間が大量発生するのだ。
そんな我が学園だが一部の生徒からは『ホモが蔓延るクソ学園』と称され、盛大に嫌われている。ちなみに、一部の生徒とは主にノンケ(異性愛者)を指す。
その中には外部生もいれば、幼少期からここで過ごしてきたもののそちらに染まりきれなかった哀れな持ち上がり組もいる。
恐らく彼らも、ただ単に『ゲイ・バイセクシャルの生徒が多い』と言うだけだったなら、ここまで過剰に嫌悪したりはなかっただろう。
だが、実際は一歩間違えたが最後、恋愛対象にもならない人間に襲われる、なんてリスクまで浮上するのだから、確かに彼らにしてみればまさに笑えない冗談のような環境だろう。
……ただ、襲われるかもしれない云々に関して過ごしづらさを感じているのは、ノンケだけではないだろうけど。
しかし、それがこの学園の赤裸々な現状であり、それは今に始まったことでも無いのだから困ったものだろう。
……そして、それに大喜びして『生きる糧』などと宣い、呼吸を乱して大興奮する類の生徒が一定数いるのも、この学園の残念な特徴である。
彼らは所謂腐男子と呼ばれるもので、同性間のアレやソレやに血涙垂らして手を合わせる人種だ。
『萌のためなら努力は辞さない』といった姿勢を見せることが多く、その忍耐力には感心するが、如何せん鼻息が荒いので少々目に毒……というか、うっかり見つけてしまうと視覚的に害が無いとも言えない。
曰くこの学園は、腐男子界隈にていわゆる“王道学園”と称され、愛されてやまないパラダイスなのだそうだ。
……まぁ、残念ながら腐男子の望んでいたSクラスなんて特別クラスは存在しないが。
しかし、生徒会と風紀委員会という二大組織は存在する。
そして、その二つの組織の仲が毎年のように悪いところは王道通りなのだそう。その際に見かけた腐男子達が、小声で嬉しそうにはしゃいでいたのは随分と前の話しだ。
万が一の誤解が無いよう一応言っておくが、俺は腐男子ではない。
たまたま知り合いにそちらへ感心がある人間がいたと言うことと、単に俺が庶民寄りな思考回路の持ち主であったというだけの話だ。
これは幼少よりこの学園に通い、とっくに毒された当人たちもよく分かっている事だが、ハッキリ言ってこの学園は普通じゃない。
一般的な学校は、生徒会役員の特権として明らかに金のかけ方の次元が違う部屋を与えたりしないし、役員の他にも風紀上位役職二名にまで、性能がバグったようなブラックカードを与えたりはしない。そして、それが一般生徒を始めとした教師からも、当たり前のように容認されたりはしない。
加えて、男子校とはいえ男が男に色めき立つ事は決して普通では無いし、『〇〇様に目をかけて頂くなんて身の程知らずも甚だしい』とか訳の分からないことを宣い、嫉妬や憎悪から他人に手を出す人間なんて滅多に居ない筈だ。
そう、そのはず。なんだけど────…
残念ながらこの学園では、そんな“異常”が我が物顔で闊歩しているのが“日常”である。
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