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昼食後、俺は東屋先生から持たされた書類をあちこちに届けていた。
しかし、届け先の教師たちは俺の次の届け先を聞くなり、悪いけどついでにと着々配達待ちの書類を増やしていった。しかも今日は運が悪かったのか、行く先々で届け先が増えていく魔のループにハマってしまった。今日は特に疲労感が酷かった。
視線を落としてカップの中を見れば、鮮やかな赤に自分の顔が映り、ゆらゆらと僅かな波紋で揺れている。
そこに映る姿は、瞳の色も髪の色も全てが赤みがかって見え、十代にして既に見飽きた俺の色彩は判別できない。
豊かな香りを放つ紅茶は温かく、心を落ち着かせてくれた。
しかし────前を向いてこの目に映るのは、どうしようもなく見慣れた亜麻色。
忘れさせはしないとでも訴えかけるかのように、淡いその髪が一瞬ダブって見える。
瞬間ザッと血の気が引いて、ぐらりと平衡感覚が鈍った。
「織部くん……?」
「? ……どうしました?」
心配そうにこちらを見詰めるアイスブルーと目が合う。
無意識に顔が強ばっていたらしい。
ほんと……悪い癖。
副会長は見た目を含め、そこかしこに身内と似ている要素がある為、どうも重ねて見てしまう。
一体、何度彼と対面していると言うのか。俺もいい加減慣れればいいものを。
心配そうな目を向けてくる副会長に俺は「大丈夫ですか?」と、あたかも『そちらの様子がおかしい』と言った様子で逆に心配の言葉をかける。
僅かに眉を下げ首を傾げる俺に対し、副会長は何処かほっとしたように口元を緩めると、小さく首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。私の思い違いでしたのでお気になさらず」
誤魔化せたようだ。
「そうですか。安心しました」
「心配してくれたんですか?」
俺はひとつ瞬きをすると副会長から視線を外し、赤く染った水面を傾けた。
「もちろんです」
「ふふ……ありがとうございます」
副会長の事は嫌いじゃない。
正直、このティータイムもやぶさかでは無い。
ただ、彼はこのように俺の情緒を乱す要因になる。一対一のこの状況が少し不都合なだけだ。
時々周りが見えなくなるのは、俺の駄目なところだ。決して、彼が悪い訳では無い。
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