軍師の嫁取り 7~戦の前には嫉妬あり~

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「でー、なんで、わざわざ昼時狙ってくるんだよー!」 「うるさいぞ、童子!せっかく、来てやったのに!」 「うるさいのは、張飛の方だっ!!」 あれから、中庭の植え込みの茂みに隠れ、孔明の様子を伺っていた、関羽と張飛を引き連れて、徐庶(じょしょ)は、なぜか孔明の屋敷を訪れていた。 「いやー、しかし、侍女殿が、黄夫人で、童子が、女童子だったとは、驚いた。で、なんで、お前、肉切り包丁握ってるのだ?」 徐庶の疑問に、卓を共にする月英が、笑いながら答えた。 「さすがに、ここは街、ですからねぇ。色々な悪党がおりますもの、身を守るために。だって、私たちは、か弱き乙女ですから」 ほほほは、と、月英と童子は、作り笑う。 「はあ、なにやら、かれこれの事があったようで……」 徐庶が、呟く。 「で?単に、タダ飯狙い、という訳でもないのでしょ?」 月英の指摘に、一同は、口を濁した。 「菜児(さいじ)や、裏方へ催促してちょうだいな。腹が減った野獣に睨まれては、たまりませんからねぇ」 「はい、奥様」 童子は、裏方へ食事の用意の催促へ向かった。 「お待たせして、すみません。人が多くなった分、小回りが利かなくて……村にいた方がよかったわ」 月英が、愚痴る。 「ん?ちょっと、待った。奥方よ、菜児とは、だれじゃ?」 「童子のことですよ。あの子にも、名前がありますもの」 ほおー、と、張飛が声を上げた。 「いや、しかし、あの村の生活とは、随分と異なって……」 徐庶が、部屋をキョロキョロと見回している。 うん、と、関羽も同意した。 「……ですわよねぇー、(わたくし)は、けっこう、あの、(いおり)生活気に入っていたんですけど、何より、均様という、名料理人がいらしたし……」 はあー、と、月英は、息を吐く。 いつもながらの、その妖艶な仕草に、皆、そわそわし、目を泳がした。 「あーー、た、たしかに、あの、漬け物は、旨かった!」 張飛が、思い出したように、言った。 「あーーー!あれね、あんたが、火吹きなんぞ、するから、備蓄用の、白菜の漬け物が、おじゃん!まったく、なんてことを、してくれたのか!」 続けざまに、月英が、攻め立てる。 わからないのは、徐庶だけで、というのは?と、事の次第を聞きたがった。 「ええ、もう、この、野人二人が現れてからは、静かな生活が、乱されっぱなし、菜児は、怒りのあまり、鎌を手放さなかったし、もうねぇー」 酔っ払った、張飛が、余興で火吹きを行った。松明(たいまつ)に、酒を吹き掛け、火柱を上げたが、それが、張飛の髭に燃え移り、とっさに、保存用に置いてあった漬け物壺の中身を、月英が、ぶちまけ、消火した。 頭から、白菜の漬け物を被った張飛は、旨い、旨いと、その白菜にかぶりつき、もう、場は混乱を極めた。 「ははは!なんだ!お二人も、人の事はいえませんねぇ!」 徐庶は、大笑いしている。 「……って、ことは、うちの旦那様について、この、野獣二人は、納得していない、と、いうことですね?」 月英の一言に、徐庶は、さらに、笑った。 「ええ、そうなんですよ、劉備様を取られたと……」 「なんだ、ちいせぇ、男達だなあー」 童子こと、菜児が、(スープ)を、運んで来た。 「おお!干し肉入りじゃ!こりゃー、豪勢じゃ!!」 張飛が飛び付いた。 「しかし、あの、庵から、出てきたとたんに、この、上流の暮らしぶりとは、諸葛亮は、一体……」 関羽が、怪訝な顔をする。 「あー、これは、かなりうっぷんが、たまっているということですね?徐庶様」 「はあ、私では、どうにもこうにも、しかし、今のうちになんとか、しておかないと仲間割れになりますから……」  徐庶は、干し肉入りの(スープ)に、喜んでいる関羽と張飛を眺めながら、肩をすくめた。
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