16人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当に。これまた、困ったことですわねぇ。結局、徐庶様、菜児が言うように、器が小さいという話なのでしょ?」
「はあ、まあ、そうなんですが、奥方、そうハッキリ言ってしまうと……」
ほら、と、前に座る関羽と張飛を見た。
「うん、確かに。器が小さい」
「おーー!!兄じゃも、そう思いましたか!!」
羹の器を、関羽と張飛は、睨み付けていた。
「はあー、器、違いというやつかしら?まったく。これでは、どうにもこうにも、なりませんわねぇ」
呆れる月英に続いて、
「そうですよ!だいたい、大の男が、タダ飯狙いに、やって来るなんて、せこいですよ。はい、どうぞっっ!!」
と、菜児が、モヤシの炒め物とネギの和え物を運んで来た。
「えーと、キビ餅もあるそうですが、今、蒸しているところなので、暫く、時間がかかりそうです」
そうかぁーー、と、張飛が、気の抜けた返事をした。
「のう、童子、均殿は、なぜ、一緒にこなんだのだ?」
えっと……と、言い渋る菜児に、月英が、もうー!と、噛みついた。
「あなたね、人の家の事に、首を突っ込む暇があるなら、出された物を、おとなしく、食べなさいよ!!」
「確かに、もてなしてくださる、こちら様に失礼ですよ」
徐庶が、口添え事で、張飛へ注意し、羹を、すすった。
「ん?これは、奥方?」
「ええ、そうなのです。徐庶様。この屋敷の裏方は、実家から送られて来た者達だから……、一からあれこれ教える必要はないのですけどね、ただ、黄家の癖が、抜けてなくて……あぁ、均様の偉大さが、身に染みるわ」
食材は、市場で買って来るので、どこか、しなびた感じがあるし、味付けも、黄家風なので、何か異なるし、と、月英は、ごちた。
「なにより、調理は、街のやり方なので、流れ作業。一人がつまずくと、そこで止まってしまって、料理の出来上がりが遅くなるんです!とにかく、均様の様に、手際よく、ってことが、できないんですよーーー!!」
菜児も、苛立ちを見せた。
「おー、なるほどなぁ、それで、器は、小さいし、味も何か違うのかあー」
「うるさいよ!張飛!さっさと食えっ!!」
「そうです!文句言える立場ですかっ!だいたい、あの時の、白菜漬けがあったら、美味しい食事ができたのですっ!もおっ!」
二人に噛みつかれて、さすがに、張飛も、ばつが悪くなり、羹を、飲み干した。
「張飛殿、味云々は、言うべきではありませんよっ!」
器を開けたとたん、不満げな顔を見せた張飛に、徐庶が釘を差す。
「はあぁ、なんだか、こちらの内々も、大変そうで。まさに、お邪魔でしたなぁ」
小さくなる徐庶へ、月英は、
「で?もしかしなくても、野人と、旦那様が、上手く行っていないのですね?」
やはりとばかりに、徐庶へ、確かめるが、その、やや眉尻を下げた、色気ある困惑顔に、男達は、またもや、当てられていた。
「あー、そのぉ、奥方も、お疲れのようだなあ。私らは、慣れぬ暮らしに不自由してないかと、思い、こうして馳せ参じた訳で、決して、諸葛亮殿に、どうこうという事は……」
と、関羽が言うが……。
「って、言っても、やっぱり、あるのでしょ?だって、そっちの、野人は、もろに、不満たらたらな顔をしておりましたもの」
ズバリと、言われては、関羽も引っ込みがつかなくなり、思わず、張飛を小突いた。
「わかりました!」
緊張する男達を前に、なぜか月英は、勢いよく立ち上がる。
「皆様のご不満、解消いたしましょう!!!菜児!馬車の用意を!」
行きなり出かける準備を言い付けている月英へ、男三人は、慌てた。
一体、どこへ行こうとしているのだろう。
「さあ、野郎共、行きますよ!菜児、お前の実家へ案内しなさい!」
勢い良く、言ってくれるが──。
「お、奥様!実家へって、それは!!」
菜児も、慌てた。
馬車の用意は、まあ、良いとして、問題は、行き先だ。
さらに、この面倒な男達を連れていくと言っている。
「奥様、やっぱり……ちょっと……」
菜児には、それ以上の言葉が出なかった。
月英が案内しろと言っている先は、荊州の州都である、ここ、襄陽の街一番の遊び場。
菜児の実家でもあり、父親が仕切る、賭場、なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!