16人が本棚に入れています
本棚に追加
「親分!!大変です!」
若い衆が、賭場の勘定場へ飛び込んで来た。
賭けた金品を預り、儲けた分を換金する部屋で、チビチビと酒を呑んでいた元締めである、全陵は、聞かされたことに、酒を吹き出しそうになる。
我が子、菜児が、帰ってきた、までは、まあ、良かろう。で、何故か、賭場で暴れる、あの、関羽と張飛を、引き連れているらしく……。それを、絶世の美女が、仕切っているのだと。
菜児は、この地の名士、黄家へ頭を下げて、行儀見習いに行かせた。こんな、裏の世界に手を染めていては、まともな暮らしなど、できないだろうと思っての親心からのことだった。
そして、あちらのお嬢様付きになったと耳にしていた。その、お嬢様は、嫁に行き、菜児も婚家に着いていったはずだ。
それなのに、関羽と張飛と現れた。もしや、二人に、拐かされたか……。
とにかく、訳がわからない。
全陵は、立て掛けてある太刀を手に取ると、立ち上がった。
「なんだか、しみったれてますわねぇ、こんな、暗い雰囲気で、殿方は、顔を付き合わせて、日頃のうっぷんを、発散させているのですか!」
一同が、あれやこれやと、なだめすかして、月英を止めたのだが、力及ばず。結局、菜児の実家である、賭場にやって来ていた。
初めて見る、裏の世界に、月英は興味津々で、菜児や、あれはなんだ、こっちは、なんだ、と、賭場の様子を尋ねている。
もちろん、周囲の視線などお構いなしで、客が遊んでいる所を、ちょっと、失礼。などと言って、覗きこんだりと、まあ、迷惑千万な、行為を行っているが、さて、文句を言おう思えども、何故か、覗きこんで来る女の後ろには、あの、関羽と張飛が、仁王立っている。
皆、仕方なく、遊びを止め、様子を見るごとで、部屋のひとところに、集まっていた。
「あーー、だから、もう、帰りましょう!賭場とは、こうゆう所なんです。もう、よいでしょ?」
と、菜児が、月英を説得する。
「あら、まだ、野人が、暴れて火を放ってませんよ?」
賭場の皆は、一斉に、関羽と張飛を見た。
嫌な視線に居たたまれなく、二人は、たちまち、小さくなった。
「おいおい、こりゃあー、なんだ。それよりも、関羽、張飛!何しに来やがったっ!!」
裏方から現れた、大柄な男が、太刀を鞘から抜くと、一行を睨み付ける。
「あーー!父ちゃん!止めてくれよー!」
「あー!だから、こうして、止めてるだろうがっ!」
言って、太刀を振り回す。
「うわっ、呑んでんな、あれ」
菜児は、皆、下がって危ないです!と、言うが、
「あらあら、まあまあ、もしかしなくても、菜児の父親上様ですか?」
月英は、ずんずん前へ進んで行く。
「あー!太刀、振り回してんのにぃーー!危ないですって!!」
「なるほど、こうして、暴れて、続いて、野人が、火を放つと、良くできた仕組みですこと!さあ、野人、出番ですよ!」
と、張飛に声をかけた。
いきなりの事に、張飛は、自身を指差しながら、周囲に思わず確認するが、張飛の物言わぬ問いかけに、皆も、つい、頷いていた。
「おおっとーー!こちらは、どこへ置きましょうかねぇ」
と──、徐庶が、ここぞとばかりに、声高に叫んで、抱え込んだ壺を皆に見せつける。
「あーー!!そうだーーー!父ちゃん!!!奥様が、酒の差し入れをっ!!」
菜児が、差し入れがあると、暴れようとしている、父親の気をそらした。
「ん?」
「ええ、うちの、奥様が、ぜひにと、あー、申し遅れましたが、私は、諸葛家に仕える、ただの侍女。奥様に代わり、菜児の父上様にご挨拶を」
「……菜児の……父上様……」
今度は、菜児の父親が、自らを指差して、手下達に確認し、皆は、頷き、客人だからと、太刀をおさめるよう、説得している。
「父上様に、ご挨拶かぁー!こりゃー、また、ご丁寧に!!」
振り回していた太刀をおさめると、菜児の父親──、親分は、月英へ向かって、それならそうと言ってくれれば、などと、言いつつ、どうぞ遊んでいってくだせぇ。と、月英を誘った。
「てめぇら!うちの、菜児が、世話になってる姐さんだっ!!わかってんだろうなっ!」
続けて、手下に発破をかける。
「……何が、起こるのじゃ?」
張飛は、いぶかしみ、もう!黙ってろ!と、菜児は、頭を抱え、酒壺、どこへ置けば?と、徐庶は、これ、重いんだがと、ごちる。
そんな中、親方は、さあさあ、姐さん!と、月英を賭場の真ん中、双六遊びの場へ、連れて行った。
「これなら、姐さんでも、十分楽しめますぜ!」
「あら、双六なら、知ってますわよ!」
月英は、勧められるまま、嬉しげに座した。
最初のコメントを投稿しよう!