軍師の嫁取り 7~戦の前には嫉妬あり~

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「やや!なんとご婦人もいらっしゃるとは!」 いやー、賭場というところは、色々な人々が集まるのだなぁー と、孔明は、感心しきっていた。 「童子、いや、菜児よ、もう少し分かりやすく、道案内の立て札でも、立ててはくれぬか?人に尋ねても、何故か、皆、言葉を濁してなあ。探し出すまで、たいへんだったのだよ」 「あー、あ、そ、そうですか、父ちゃんに、伝えておきますので……旦那様、もう、帰りましょう!」 えっ!?と、声が上がった。 「あらまあ!旦那様!」 「あー!!」 孔明は、月英の姿を認めると、そそそと、近より、ホッとした顔をした。 「いや、お一人で、挨拶とは。それでは、私の面目が」 孔明は、ゴニョゴニョ言っている。 「まあまあ、そうゆう、細かなことは、侍女に任せていただくのがいちばん、ですわっ」  と、月英が、孔明へ、目配せした。 「え、あ、じ、侍女、ですかっ……」 パチリと、目を閉じられ、孔明は、その発せられた色気に、思わず当てられた。つい、うつむいて、また、ゴニョゴニョ言っている。 月英に、当てられたのは、何も、孔明だけではなく、一緒に、双六を行っていた相手も、月英連勝を物珍しく、眺めていた野次馬も、一斉に、頬を染めていた。 「おう!菜児!こちらさんは、お前の旦那様か?!」 呂律は回らないが、菜児の父親が、賭場を仕切る親方として、シャキっとした姿で現れた。 「これは、これは、旦那、うちのが、いつも、ご迷惑をおかけしておりやす。また、ご丁寧に足をお運び頂いて、どうぞ、旦那も、遊んで行ってくだせぇ」 おい!てめーら!うちの、菜児がお仕えする旦那様だっ!!!わかってんだろうなぁーー!! 全陵(ぜんりょう)の、雄叫びに、賭場の男達は、へい!と威勢良く返事をした。 「うふふふ、旦那様、みてくださいな、これ」 月英は、勝負表を、孔明へ見せた。 「黄……いや、侍女や、何ですか?その、縦線は。もしや、他国との、繋ぎですかっ?!」 生まれてこの方、賭場に限らず、遊びとは縁遠い孔明には、目にするものが、秘密の書状か何かの様に見えているらしく、なぜ、妻が、その様なものを、持っているのか、はたまた、賭場、とは、裏社会と言われるだけあって、そこまでのものも、扱う場所なのかと、孔明は、驚愕した。 「じ、侍女や、危険です!早く、手をひきなさいっ!!あなたには、荷が重すぎますっ!!」 「はいはい、もう、終わりにいたしますよ。長居するのは、こちらにも、ご迷惑でしょうから」 なにせ、私のために、いかさまで、勝たせてくれて……ねっ、と、前にいる相手に月英は、囁いた。 いやあー、姐さん、冗談がキツイなぁー、と、空々しく、賭場の男は笑った。 「なんじゃと!姐じゃが、いかさまをしたとなっ!こやつ、何をぬかす!!」 何故か、張飛が仁王立ち、手元を照らす燭台を、握っている。 「うわっっ!張飛の野郎!!」 おい!火を放つぞーーー!!と、皆が叫ぶ。 「へえー、これが、賭場名物、野人の放火ですか」 「ち、ちょっと待ってくれ!姐じゃ!!こいつらが、姐じゃが、いかさまをしただと、言い出したから、ワシは!!!」 「で、野人よ、姐じゃ、って、なんですか?」 月英は、眉を潜め、張飛へ言った。 「あたいに、そんな、目玉グリグリの、ピンピン髭野郎の弟なんてぇ~、いないねぇ」 まずい!! と、孔明と菜児が、共に叫んだ。 「だ旦那様、は、早くとめないと!」 「わ、わかってる、わかってるよ、菜児、しかし、だね……」 顔をひきつらせる二人のことなと、お構いなしで、月英は、 「ちょいと!そこの、髭!」 今度は、関羽を、呼びつけた。 だ、だめだっ!! と、孔明と菜児が、再び叫ぶ。 「旦那様ーーー!」 「ああ、ああ、どうすれば!!」 すでに、涙目の二人など月英には、見えていない。 「ちょいと!髭!あんたの弟分が、あたいのことを、姐じゃ呼ばわりするんだがねぇ、どう、おとしまえつけてくれるんだい?」 「は?!主は、張飛の姐じゃではなかったのか?あれほど、張飛を手なずけておいて……私も、姐じゃと、呼びたいぐらいだ」 「なんだって!!」 月英は、すっくと立ち上がった。 「皆さん!お集まりくださいなっ!!」 おい、姐さんが言っているんだ、早く集まれっーーー! 親分である全陵(ぜんりょう)に言われ、来たばかりの客までが、何事だと、月英のまわりに集まって来た。
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