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「やや!なんとご婦人もいらっしゃるとは!」
いやー、賭場というところは、色々な人々が集まるのだなぁー
と、孔明は、感心しきっていた。
「童子、いや、菜児よ、もう少し分かりやすく、道案内の立て札でも、立ててはくれぬか?人に尋ねても、何故か、皆、言葉を濁してなあ。探し出すまで、たいへんだったのだよ」
「あー、あ、そ、そうですか、父ちゃんに、伝えておきますので……旦那様、もう、帰りましょう!」
えっ!?と、声が上がった。
「あらまあ!旦那様!」
「あー!!」
孔明は、月英の姿を認めると、そそそと、近より、ホッとした顔をした。
「いや、お一人で、挨拶とは。それでは、私の面目が」
孔明は、ゴニョゴニョ言っている。
「まあまあ、そうゆう、細かなことは、侍女に任せていただくのがいちばん、ですわっ」
と、月英が、孔明へ、目配せした。
「え、あ、じ、侍女、ですかっ……」
パチリと、目を閉じられ、孔明は、その発せられた色気に、思わず当てられた。つい、うつむいて、また、ゴニョゴニョ言っている。
月英に、当てられたのは、何も、孔明だけではなく、一緒に、双六を行っていた相手も、月英連勝を物珍しく、眺めていた野次馬も、一斉に、頬を染めていた。
「おう!菜児!こちらさんは、お前の旦那様か?!」
呂律は回らないが、菜児の父親が、賭場を仕切る親方として、シャキっとした姿で現れた。
「これは、これは、旦那、うちのが、いつも、ご迷惑をおかけしておりやす。また、ご丁寧に足をお運び頂いて、どうぞ、旦那も、遊んで行ってくだせぇ」
おい!てめーら!うちの、菜児がお仕えする旦那様だっ!!!わかってんだろうなぁーー!!
全陵の、雄叫びに、賭場の男達は、へい!と威勢良く返事をした。
「うふふふ、旦那様、みてくださいな、これ」
月英は、勝負表を、孔明へ見せた。
「黄……いや、侍女や、何ですか?その、縦線は。もしや、他国との、繋ぎですかっ?!」
生まれてこの方、賭場に限らず、遊びとは縁遠い孔明には、目にするものが、秘密の書状か何かの様に見えているらしく、なぜ、妻が、その様なものを、持っているのか、はたまた、賭場、とは、裏社会と言われるだけあって、そこまでのものも、扱う場所なのかと、孔明は、驚愕した。
「じ、侍女や、危険です!早く、手をひきなさいっ!!あなたには、荷が重すぎますっ!!」
「はいはい、もう、終わりにいたしますよ。長居するのは、こちらにも、ご迷惑でしょうから」
なにせ、私のために、いかさまで、勝たせてくれて……ねっ、と、前にいる相手に月英は、囁いた。
いやあー、姐さん、冗談がキツイなぁー、と、空々しく、賭場の男は笑った。
「なんじゃと!姐じゃが、いかさまをしたとなっ!こやつ、何をぬかす!!」
何故か、張飛が仁王立ち、手元を照らす燭台を、握っている。
「うわっっ!張飛の野郎!!」
おい!火を放つぞーーー!!と、皆が叫ぶ。
「へえー、これが、賭場名物、野人の放火ですか」
「ち、ちょっと待ってくれ!姐じゃ!!こいつらが、姐じゃが、いかさまをしただと、言い出したから、ワシは!!!」
「で、野人よ、姐じゃ、って、なんですか?」
月英は、眉を潜め、張飛へ言った。
「あたいに、そんな、目玉グリグリの、ピンピン髭野郎の弟なんてぇ~、いないねぇ」
まずい!!
と、孔明と菜児が、共に叫んだ。
「だ旦那様、は、早くとめないと!」
「わ、わかってる、わかってるよ、菜児、しかし、だね……」
顔をひきつらせる二人のことなと、お構いなしで、月英は、
「ちょいと!そこの、髭!」
今度は、関羽を、呼びつけた。
だ、だめだっ!!
と、孔明と菜児が、再び叫ぶ。
「旦那様ーーー!」
「ああ、ああ、どうすれば!!」
すでに、涙目の二人など月英には、見えていない。
「ちょいと!髭!あんたの弟分が、あたいのことを、姐じゃ呼ばわりするんだがねぇ、どう、おとしまえつけてくれるんだい?」
「は?!主は、張飛の姐じゃではなかったのか?あれほど、張飛を手なずけておいて……私も、姐じゃと、呼びたいぐらいだ」
「なんだって!!」
月英は、すっくと立ち上がった。
「皆さん!お集まりくださいなっ!!」
おい、姐さんが言っているんだ、早く集まれっーーー!
親分である全陵に言われ、来たばかりの客までが、何事だと、月英のまわりに集まって来た。
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