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嘘だろーーーー!!!
賭場に、地鳴りのようなどよめきの後、爆笑が起こった。
「なんじゃ!ワシじゃて、女房ぐらい、おるわっ!!」
なにが、おかしいのだと、張飛が息巻く。
「あー、なるほど、それで、おなごの扱いが、野人の割には、関羽様より、手慣れていると……」
月英が、呟いた。
いや、あねさん、手慣れているかい?!ただ、平謝り、あねさんの機嫌を取っただけじゃないかい!
賭場の客達は、月英へ、意見した。
それにしてもと、皆、驚いている。
ついに、というべきか、当然というべきか、月英が、噂の、名士、黄承彦の、あの醜女娘だったとは。そして、張飛に、女房が、いたとは。
「なるほど、話し合いと、いうのは、このように、発見がある訳ですか」
孔明が、右手を見ながら、感慨深げに頷いている。
「でた、明後日の方角から、喋る癖が……」
徐庶が、こいつは、相手にしなくていいからと、皆に言う。
すると──。
「ですが、そちらは、官吏様でございましょう。私らとは、別世界のお方。そして、賭場でお怪我をおってしまわれた……」
小柄な目立たない男が、含み語る。
「お前……」
突っかかるすんでの、関羽を、徐庶が止めた。
「あー!さっきの、薬売りの兄さんか!いやぁー、たかが、火傷、されど、火傷!こいつは、書記係だから、手が使えなくなると、仕事ができん。兄さんが、火傷薬を分けてくれて、助かった!なあ!」
言って、徐庶は、孔明を、じっと見た。
「あっ、なるほど。わかった。わかった。とにかく、礼を言わねばならぬのだな?」
「あったりめぇーだろー!ここまで、手当てしてくれたんだぜ!」
徐庶は、手拭いが巻かれた孔明の手を、ペシリと、叩いた。
あいててて!やっぱり火傷が、痛い!と、孔明は、ごちる。
「まあ、世間知らずなもんで、礼も、まともに言えないが、許してやってくれ。手間をかけた」
言って、徐庶民は、孔明に薬を与え、手当てしてくれた男に、頭を下げた。それを見て、孔明も慌てて、頭を下げる。
「ああ、おやめください!劉表様とも、蔡瑁様とも、ご親戚のあなた様が、わたし、などに、頭を下げるなど!」
瞬間、ニヤリと、男が笑ったのを、徐庶も関羽も見逃さなかった。
そして、周りの野次馬も、この土地の、重鎮の名前を聞き逃すことはなく……。
皆の視線が、孔明へ集まった。
「あー、そうですかぁ、困りますねー私ごときが、親戚だなんて。何の繋がりも、本当は、ないのですから。繋がりがあるのは、黄夫人ですからねぇ」
言う孔明に続いて、
「まあ、私がとやかく、繋がりを説明しなくとも、皆さん、黄承彦の名前で、ピンときますでしょう。確かに、旦那様は、縁続きと言っても、私と、夫婦だからこそ。これで、私が離縁されたら、旦那様は、何の関係もなくなりますし。賭場で暴れる妻など、離縁したくなったことでしょ?」
と、月英は、孔明へ、畳み掛けた。
「ありゃ?こりゃ、なにやら、雲行きが、怪しいぞ。やはり、ワシの出番かのぉ。夫婦のことは、任せておけ」
何故か、張飛が割り込んで来る。
たちまちに、賭場が沸き立った。
「張飛、やめろ!」
「余計なことすんな!」
「なにも、もめ事なんぞ起こってねーだろー!」
「ただの、例え話じゃないかっ!!」
おお?そうなのか?と、張飛はとぼけている。
その隙を見計らってか、薬屋の男は、頭をさげて、そろそろ次の街へ向かいませんと、と、言い捨てて、賭場を出ていった。
「親分!」
徐庶が、全陵へ、関羽は、張飛へ、目配せする。
「さてさて、他に、こじれた夫婦は、おらんかのぉ。ワシが、仲裁してやるぞー!」
張飛は、相変わらずで、野次馬の中へ入って行った。
「いや、勘弁、勘弁!!」
「それよりよ、張飛の嫁さんの方が、気にならねぇか?!」
「だよなぁー!!どこの、物好きなんだぁ?!」
よっしやっ!!ワシの嫁御の事を、話してやるわあー!!と、雷声が、響き渡った。
皆は、うっせーよ!と、言いながらも、聞かせろ、聞かせろと、張飛を囲み始めた。
「うん、あっちは、張飛に任せておけばよいだろう」
関羽は、言うと、徐庶を見る。
「うちの若い衆を、放ちました、あいつの素性も、わかるでしょう」
頷き合っている二人に、全陵が、言う。
「あれ?菜児は、どうしました?」
姿が見えないと、孔明は心配するが、
「……繋ぎ、ですわね?親分?」
隣で、月英が落ちつき払っている。
「いやー、さすが、あねさん。あっしは、とことん、あねさんに、惚れ込みましたぜ。どうか、この全陵を、使ってくだせぇ。裏の事ならなんなりと……」
「ええ、さっそく、使わせて頂きますよ」
孔明が割って入ってくると、できれば、山の方面へ向かうかどうか、確かめてくれと言う。
「あの男は、山を越えて、北へ向かいます」
「諸葛亮よ、北、というと……」
「つまり……」
言葉を濁す、徐庶と関羽に、孔明は、大きく頷き、
「あれは、曹操の手の者」
と、言い切った。
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