どろぼう、どろぼう。

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「あ、うん、まあ……」 「そっか。あ、ここの駄菓子美味しいよ、おすすめ」  彼女はまったく悪びれもせず、自分がさっき盗んだばっかりのお菓子のあたりを指さして笑った。そして、最初からその予定だったのかはたまた誤魔化すためか、飴玉を買って店を出ていったのだった。  計画失敗。落ち込む私に、ねえ、とカオリちゃんがレジのおばあさんに声をかける。ちなみに、この小さな文具店を経営しているのはおばあさんで、いつも彼女が一人でレジに座っているのだった。ひょっとしたら旦那さんなども仕入れを担当していたのかもしれないが、レジで見かけるのはいつも彼女だけである。 「おばあさん……リナ先輩が何をしたか、気づいてるんじゃありませんか」 「え」  私は眼を見開いた。てっきり、あのぼんやりした顔のおばあさんは、リナ先輩が万引きをしていることに気づいておらず、だから見過ごしてしまっていたのかと思っていたのだ。そうでなければ、リナ先輩が“盗み放題”とまで言うほど万引きを繰り返すとは思えなかったからである。  唖然とする私に、カオリちゃんは棚の上の方を指さした。私はそこでようやく、店の中には複数の防犯カメラが設置されていることに気づいたのである。しかも、リナ先輩が万引きをした駄菓子コーナーが一番はっきり映りそうな角度で、だ。 「どうして、先輩を捕まえないんですか?」  正義感の強いカオリちゃんは不思議で仕方なかったのだろう。尋ねる彼女に、おばあさんはうっすらと笑みを浮かべて言ったのだった。 「ちゃんとお代は貰うから、いいんですよ。後払いだけどね」 「お代?おうちに請求するってこと?」 「いいえ。普通にお買いものする人は、お金でお支払いただければいいんですけれど、万引きなんてする人はね。お金では、正直足らないと思っているんです。お嬢ちゃんたち、知らないでしょう?万引きのせいで、どれだけのお店が苦しんで、経営難に陥って潰れていっているのか。文房具店も、コンビニも、みんな迷惑しているんです」  だからね、と彼女はのんびりとした口調で言ったのだった。 「そういう人は仕方ないからね、お金以外のものでお支払をしてもらうことにしたんです。万引きをするとそうなるっていうことが広まれば、きっとみんな、行動や考えを改めてくれると思うんですよねえ。あの御嬢さんは、もう十五回目だから……まあ、そろそろかもしれませんね。うちの店以外でもやっているようだし」
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