どろぼう、どろぼう。

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 ***  彼女が何を言っているのか、当時の私達はわからなかった。むしろ、わからなくて当然だったのだろう。わからないということはつまり、私やカオリちゃんが万引きなんかせず、真っ当に全てのお店を利用していたということに他ならないのだから。  リナ先輩は、中学を卒業する前に死んだ。突然、重たい病気にかかったのだ。本来ならばもっと早く発見できてしかるべきはずの病気だったのに、何故か彼女は末期状態になるまで見つからなかったというのである。  リナ先輩だけではない。高校に入ってすぐ、リナ先輩と同じトランペットパートのシノブ先輩も、クラリネットパートのカズネ先輩も、それからパーカッションのユナ先輩も。みんなみんな、高校に入ってすぐ、長くても大学生になる前に死んだ。これが交通事故とかも含まれていたならともかく、全員が不自然に“病死”という死因で亡くなることになるのである。  大学生になった今でも交流が続いているカオリちゃんは、私に電話でこう言った。 『きっとあれ……盗んだお菓子や文房具の分、後払いしたってことなんだよ。お金じゃなくて……寿命で。きっと、そういうおまじないかなんかを、あのおばあさんはやってたのよ……』  悪いことはするもんじゃない。  特に万引きは、軽い気持ちでやったら最後、誰かの人生を大きく狂わせる原因にもなりかねないのだ。それこそ、人に命を奪ってもいいと思わせるほど恨まれてもおかしくないと知るべきなのである。  みんなも、よく覚えておいた方が良い。  寿命で後払いさせるシステムを使っているのはきっと――ツボタ文具店だけではないのだろうから。
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