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「…ふぁぁ、流石に5時起きっていうのも眠いものね。」
時は朝の5時。
何でこんなにも早く起きているのかと言えばそれは簡単で。
武晴の弁当をこれから作るのだ。
昨日の苦し紛れな誤魔化し方で通用する訳もなく嘘であるのは明確だった。
だから、仕方ないけど作ってあげよう、そう思ったのだ。
「なんやかんや言って、大概私も息子に甘いものね。
さてと、作りましょうかね。
まずは…冷蔵庫に何があったかしら。
えっと…──!!」
ガチャ
独り言をブツブツ呟きながら作業に取り掛かる。
まずは冷蔵庫にある食材を見て決めようとして冷蔵庫を開けてみた。
すると、そこには3つの弁当箱があったのだ。
…ん?なんで3つも?
というか、いつの間にこんな用意してたのかしら。
しかもご丁寧になんか貼り紙貼ってあるし。
えぇと…1つは、明斗さんの。
1つは、え、和啓くん?
明斗さんは分かるとして、どうして和啓くんの分まで作ってるのかしら。
じゃあ、最後のは武晴の?
流れ的そんな気がして。
だから、てっきり結局ちゃと自分の分作ってたのねと思ってしまっていた。
でも、貼り紙をよく見てみればそこには。
「…ふふ、ふふふっ。
我が息子ながら嬉しいこと、してくれるじゃないの。」
そこには、”母さん”と、マッキーでデカデカと書かれていたのだ。
それに思わず驚いて。
でも、凄く心の底から嬉しい気持ちが込み上げた。
思いがけない嬉しいサプライズ。
我が息子ながら、良くやってくれたわと思った。
初めての弁当作りで、まさか私の分までちゃっかり作ってたなんてね。
そう思えば昨日の武晴の買ってきた材料が心做しか多かったのも納得するわ。
「…ほんとっ、やってくれるじゃないの、武晴。」
グスッ
あぁやだわ。
この歳になると余計涙脆くなっちゃって。
困ったものね。
震えそうになる声を、何とか抑える。
「さてと、武晴の弁当作りますか、っと。」
溢れる気持ちを誤魔化すように、私は武晴の弁当作りに勤しむことにした。
ありがとう、武晴。
───────
────
「母さん行ってきまーす!」
「あ、ちょっと待って武晴。」
「んえ?なに?」
トトト─。
時は少し経ち、丁度武晴が学校に行こうとしていた。
私はそんな武晴を呼び止めた。
何故かって?
そりゃ決まってるじゃない。
「はい、これ、武晴の弁当よ。」
「…?うん?えっ、なんっ、母さん弁当。」
この、ハテナを飛ばしまくってる息子に先程作った弁当を渡すためだ。
にしても驚きすぎじゃないかしらねぇ。
「ははっ!驚きよ武晴。
あんた自分の分の弁当もちゃんと作るとか言ってたけど、あれ本当は嘘だったでしょ?」
「え"っ、あ、いや、そそんなことは。」
「今更誤魔化しても無駄よ。
武晴、明斗さんに和啓くんのために弁当作ること考えすぎて自分の分の忘れてたんでしょ?」
「…はい。」
ギクッ、と図星をつかれテンパる武晴をよそに私は遠慮なく言う。
するとシュンッとなるが、その姿がまた可笑しく見えて笑ってしまった。
「ははっ、そんな縮こまらなくてもいいのよ。
本当に…ありがとうね、武晴。」
「え?」
「3つのうちの弁当、母さんのために作ってくれたんだよね。」
「!…な、なんだ、気づいてた、のか。」
「ふっ、当たり前よ。
母さんはなんでも知ってるのよ?」
「むぅ。」
そこまで気づいてたのかい、と言わんばかりのジトッとした目で見られる。
息子よ、あんな分かりやすい貼り紙してたら誰でも気付くと母さん思うのよね。
自分もジトッとした目になっている気がした。
て、こんなことはいいのよ。
それより私は。
「母さん、本当に嬉しいから今日は会社の人たちに自慢するしSNSでもあげちゃうんだからね。」
「えっ、あ、なな何もそこまでしなくてもっ。
それにそんな自慢するほど上手く作れたわけじゃないのにそんな。」
「何言ってるのよ。
可愛い可愛い我が子が私のために作ってくれたってだけで充分嬉しいものなのよ?
しかもサプライズでだなんて特に。」
「かわっ!…そっそうかな。」
「そうよ。」
私はこの、武晴の作ってくれた弁当を自慢したい。
この嬉しさを、他の人にも共有したいというか、めっちゃ話したい。
うちの息子がこんなにも良い子可愛いって。
だから、たじろぐ息子に私は素直な気持ちを言えば、顔を赤くする息子はやっぱり可愛いと思う。
「そっか、そっか。」
「武晴。」
「シシッ、そっか、良かった。
喜んでくれたんだ。
母さん、俺、嬉しいよ。
作った弁当、喜んでもらえて。」
「私もよ、武晴。」
私に言われた言葉を噛み締めているのか、そっか、という言葉を繰り返し言う武晴。
すると、いつもの独特な笑い方と共に嬉しさと照れの混ざった顔をさせて喜ぶ息子。
そんな息子が微笑ましく見えて、自分も笑みが零れた。
作ったものを喜んで貰える。
些細なことかもしれないけど、それは存外嬉しものなのだ。
つくり手としては冥利に尽きるし、次も頑張ろうって思える。
何よりも、大切な人からは特に。
「母さん。」
「なに、武晴。」
「その、俺もいつも弁当作ってくれて、さ、あ、ありが、とう。」
「!!もう、本当にあんたって子は可愛いんだから。」
ワシャワシャッ
息子の突然のデレに私はもろいい意味でダメージを喰らい、構い倒したいという欲を抑えるのは無理だと一瞬で悟る。
現に、武晴の頭を撫でる手は止まらなかった。
た、武晴がデレた。
え、見た?
恥ずかしそうに、でも、顔を赤らめてありがとうっていう武晴。
可愛いすぎか?
いや、可愛いわ。
「うわっ!や、やめろよ母さん!
は、恥ずかしいから!」
「えぇー?照れ屋さんなんだから。」
「もう!」
いきなり頭を撫でられ驚く武晴たけど、必死に恥ずかしそうに抵抗し出す。
そんな姿にも愛おしく見えて、まだまだ撫でる手は止まらなかった。
ふふん、照れちゃって可愛いんだから。
そんな時だった。
「…あのー、俺の分の弁当は…。」
「「……あっ。」」
「酷い!武晴も母さんも俺の弁当作ってくれないなんてとんだいじめだ!」
控えめな声で割って入ってきたのは旦那だった。
何かと思えば自分の弁当は?と聞かれて、武晴と共にハッとなる。
やっば、武晴のことでいっぱいになってすっかり忘れた。
そんな私たちを見て、ヨヨヨと泣き崩れるマネをしながらそう落ち込む旦那。
そんな旦那を武晴と共にあやすことになるのは明白だった。
すまんね旦那。
代わりと言っちゃなんだけど、今日は旦那の好きなものでも作りますかね。
こうして、私たち一家の一日が始まったのだった。
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