二駅目 不思議な奴

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武晴との出会いは偶然だった。 それは秋の終わり、本格的に寒さが訪れる手前の時期で、電車の中にいたんだ。 奴は具合が悪いのか、凄く怠そうに呼吸が荒くしていた。 そんな奴に周りは特に気にする素振りをする訳もなく、携帯を見つめボーッと一点を見つめ、本を読み、うたた寝してと、三者三様だ。 それを見て、つめてぇ世の中になったもんだなとしみじみ思う。 まぁ、かくいう俺も俺で何もせず奴の事を見過ごそうとした。 ほっとけばいい。 俺には関係ない。 俺と奴は他人。 奴が、一人で何とかするだろう。 なのに─ 「おい、お前、大丈夫か?」 「………─」 「…おい?おーい、おいおい、おい!」 「!…えと、すみません。なん、です、か?」 「お前、調子悪ぃだろ。 次の駅で降りるぞ。─」 ─何故だか俺はほっとけなかったんだ。 柄じゃないのは分かってる。 でも、一度動いてしまえば俺は甲斐甲斐しく奴を介抱していて。 自分でもなんでここまでやっているのか自分自身に問い掛けたくなった。 「─…です。」 「え?」 「電話番号、○△○-× □▽× -○× ◇▷、です。」 「おっ、ありがとうな、教えてくれて。」 「いえ、その、あと、俺の名前、武晴、です。」 「たけはる、いい名前だな。 俺は、明斗だ。よろしくな。」 「は、い。」 奴…武晴くんからしたら俺も見ず知らずの奴なのに、電話番号も名前も教えてくれた。 本来なら、そんな安易に教えていいものじゃないのに。 体調が悪いから。 だから警戒心が薄れてしまってるんだ。 そうだ。 だから、武晴くんと関わるのはこれきりだ。 そうすれば、正気に戻った時に、ふと畏怖し後悔しても、何にも接触しなければ 何事もなく終わる。 安心させてやれる。 俺は、人を不快にさせるから そんな俺は、関わらない方がいい。 (お前っていつもそんなに無愛想でさ、ホント何考えてるかわかんねぇよな。) (つまらねぇ面白くねぇ、お前、腹の中で俺たちのことどう思ってるんだよ。) (見下してるんだろ?俺たちのこと。) 〜数日後〜 「「──あっ。」」 そう、思ってたのに。 何故か俺は、また会ってしまった。 「あ、明斗さん、この間はありがとうございました。 明斗さんのおかげで無事家に帰れましたし、この通り元気いっぱいになりました。」 「…そっか、それは良かった。 またああならないよう、次からは気をつけなよ。 あの時、俺がいたから良かったものの、次もあの時みたいになるとは限らないからな。」 「はい、肝に銘じます。」 武晴が嬉しそうにお礼を言う。 元気なお前はそんな表情をするんだな。 確かに元気なのは確かで安心はした。 でも、これ以上は俺は関わらない。 そもそも俺は大人、武晴くんは高校生、未成年だ。 相容れるわけなくて、互いのためにはならない。 奴には奴の人生がある。 そこには俺は不必要だ。 だから、さっさとここを去らなきゃな。 「てことでじゃあn─」 「待って!…ください。」 ガシッ! 「…なん、だ?」 腕を掴まれる。 突然のことに、驚いて言葉がつまった。 「その、良かったら連絡先教えてくれませんか?」 「は、なんで。」 「お礼、したいんです。 あの時間帯は本来は登校、出勤時間で、その、俺のせいで明斗さんは遅刻、したんですよね。 だから、お詫びとお礼も、したいんです。」 思いもよらない言葉だった。 礼を言われるのはまだしも、そこまで言われるとは思わなくて。 俺はただ助けただけ。 そんなの、いらねぇ。 だから俺は遠慮しようとした。 礼は言われどそれ以上は求めてねぇんだ。 なのに。 「─いやです!─これっきりなんて俺、いやなんです。 折角こうしてまた会えたのに、呆気なく終わるなんてそんなの、寂しい…っ。」 フォローを入れつつ断りを入れたのに、武晴くんは一向に引き下がってくれなかった。 どうしてなんだ? 寂しいとか嫌とか。 なんも楽しくなんかねぇのに。 俺といたってどうせ…。 ギ、ギュウ なぁ、お願いだからそんな顔しないでくれ。 悲しそうに目を揺らして、名残惜しそうな顔してさ。 そのぎこち無く、でもしっかりと俺の前腕を掴む、その手も。 困るんだ。 俺…俺の気持ちが揺らぎそうになる、から。 「でもっ!」 …そう、か。 そう、だよな。 これならきっと。 「──……いや、分かったよ。 武晴くんの言う通り、せっかくこうしてまた会えたのは運命っちゃ運命だもんな。───こんな俺でよければ、友達になってやる。」 武晴くんが俺に飽きるまで、仲良しごっこ…友達という関係でいるんだ。 それなら別に誰も傷つかない。 終わる時も後悔も悲しさも辛さもそんなものもねぇんだ。 「──よっしゃ!ありがとうございます明斗さん!」 喜ぶ武晴くん。 それは本当に心からの喜びに見えて。 モノ好きで不思議で、心做しか眩しく見えた。 そんな喜ぶことでもないのに。 本当に、変わったヤツだ。 「────明斗さん。」 「なんだ、武晴くん。」 気づけば武晴くんが降りる駅に着く時間になっていた。 たいしたことしか話してないはずなのにあっという間に感じて。 「また、会いましょうね。」 「!…あぁ、また会おうな。」 『──ドアが開きます。ご注意ください。』 シュゥゥー! 「シシッ、約束ですからね!」 タタッ! なぁ、武晴くん。 「約束なら、守らねぇとだな。 次、楽しみにしてるからな。」 お前は、あと何回そう言ってくれるんだろうな。 「はい!!」 武晴くんが俺を切り捨てるその時まで、俺はお前の友達でいるよ。 だから、その約束もなんでも守ってやるさ。 ─────── ───
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