二駅目 不思議な奴

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「…あっという間、だな。」 あれから半年と1ヶ月経ったけど、なんやかんや言って俺たちの関係、まだ続いてんだな。 本当ならもう、飽きられてもおかしくねぇはずなんだが。 それなのに武晴のやつは。 「なぁーにしてんだ明斗。」 「げっ、桐緒(きりお)さん。」 俺の肩にポンッと手を置かれたと思えば、ニヤリと笑う課長、桐緒さんだった。 そんな桐緒さんに思わず、げっ、と言っちまった俺は悪くねぇ。 なんたって、桐緒さんも俺にズカズカと踏み込もうとしてくる人だからだ。 俺はいいと言ってんのに桐緒さんはそれをやめねぇんだ。 でも、桐緒さんには何度も助けられてる。 だから強くは言えない。 それがもどかしくもあるけどさ。 「げっ、とはなんだげっ、とは。 これでも俺は課長なんだからな。」 「あー、すみません。」 「ハハッ、相変わらず言葉に心のこもってねぇ。」 「…それで、桐緒さんなんですか?」 「んお?あぁそうだった。 いやぁ、お前さんがなんだか楽しそうに携帯いじってるもんだから気になっちまってな。」 「!……別に、桐緒さんには関係ないじゃないですか。」 「こらこら、またそう言う悲しいこと言わないの。」 「おかんですか桐緒さんは。」 そう、か。 俺は、武晴とこのメールでのやり取りを楽しんでたのか。 確かに、武晴と電車で喋ってる時も俺は楽しかった。 でも、これもまた言われたから気付いたわけで。 自分でじゃ、どうしてもそれに気づけなかった。 だって俺は、楽しいとか嬉しいとかそういうのはよくわかんねぇから。 (なぁ武晴くん。) (なんですか明斗さん。) (こんな俺と話しててつまんなくねぇか?) (え、何言ってるんですか明斗さん。 つまんなかったらこうして何回も会いませんし、何より今話してませんよ。) (そう、なのか?) (はい!だって、俺は明斗さんと話すのとっっても楽しいですから!) (!) あの時間違いなく、俺はその言葉に嬉しいと思っちまった。 それと同時に、俺も武晴と話す時間が知らず知らず楽しいと自覚したんだ。 そしたら俺は、どうしようもなく苦しくなった。 あぁこんな絆されちまったら、この関係が終わった時つらくなっちまうじゃねぇか、って。 これはあくまでも仲良しごっこ、だから。 武晴が俺に飽きて捨て置かれるまでの、さ。 「あ、そうだ!明斗ちょっと携帯貸してくれや。」 ガシッ! 「…え?あっちょっと桐緒さん!」 桐緒さんの携帯貸してくれという言葉と共に強奪される携帯。 突然の事に一瞬理解が追いつかなくて思考が止まるも、すぐに我に返って桐緒さんに詰め寄った。 なんだって桐緒さんは俺の携帯を。 ってなんかめっちゃいじってるし! 「桐緒さん!俺の携帯、勝手に弄らないでくださいっ、てばっ!」 「おーおー大丈夫大丈夫!ちょっとお前さんの携帯に俺の連絡先登録してるだけ、だからさ!」 「はぁ?そんな理由でっ、俺の携帯を強奪したんですか!」 「そんなとはっ、酷いなぁ。 面と言ってもお前さんのことだから、首を縦に振らんだろうに。」 「それ、は。」 携帯を取り返そうと手を伸ばす。 でも、桐緒さんも携帯を取り返されんと負けじとスラスラとかわしてくるものだから、タチが悪いと思うのは仕方がねぇ事だと思う。 そして、桐緒さんに言われた言葉に声が詰まる。 首を縦に振らんと言われて、実際そうだったから。 「よしっ!出来たぞ明斗! 電話の連絡先に、トーカーの俺のフレンド登録もしといたぞ!どうだ嬉しいだろ!」 ブォォン! 「返事を待たず携帯を強奪しておきながら、勝手に携帯をいじって登録もする行為に嬉しいと思います?」 「はははっ!こりゃ手厳しいな!」 「………。」 いや、シンプルにだるいわ。 だから、思わずジットリと睨みをきかせてしまうのは許されると思う。 あと、乱暴に桐緒さんの手から奪い返したことも。 これだから大雑把で強引でズカズカと入り込んでくる桐緒さんが苦手なんだ。 そんな時。 「ゴホンッ、桐緒課長。」 「げっ、あ、これはこれは社長じゃねぇですか。どうしましたか?」 俺たちの前に社長さんが現れたのだ。 ジットリと桐緒さんを見る社長さん。 それに思わずヤベッ、と言わんばかりに声を漏らす桐緒さん。 あぁ、やっぱりこの人は社長さんには全く適わねぇんだな。 そう思った。 「あまり柳多くんをいじめないように。」 「はっはっ社長やだなぁ、俺が明斗をいじめてるわけないじゃないですか。 ただなかなか素直になってくれない明斗に連絡先を登録しただけですから。」 「ほぅ。でも、もっとやり方というものがあったんじゃないかね?」 「あっはっは〜、それは、そのー…手厳しいなぁ〜。」 さっきの勢いは枯れ、軽く冷や汗を垂らしながらしどろもどろに弁明する桐緒さんに、まだまだジットリと見続ける社長さん。 なんともゆか…う"う"ん!おもしれぇのなんの。 「最近はパワハラやらセクハラやらそう言うの厳しいんだから。 次はもっと考えて行動するように。」 「すみません…。」 「すげぇ。」 社長さんって、凄いんだな。 そう思う。 あんな喧しい桐緒さんをあっという間に沈静化させるんだ。 思わず羨望の眼差しで見てしまった。 「そうそう、柳多くん。」 「あ、俺ですか。 えっと、なんですか?社長さん。」 「一人でいることは決して悪いことじゃないし、何かを言われる義理もない。 でもね、人は万能じゃないから時にどうしても一人じゃ出来ないことがある。 誰かの支えや助け、些細なきっかけがあるから、人は成長するんだ。 だから、柳多くんがもし良ければもう少し歩んでほしいと、私は思ってるよ。」 「…はい。」 また、だ。 どうしてここの人は似たようなことばかり言うんだ。 社長さんの優しさと気遣いが辛い。 桐緒さんも周りも…っ。 (なぁ明斗、お前が過去に何があったのかはわかんねぇけどよ、ここにはお前を蹴落とそうとする奴なんざいねぇんだ。 だからよ、そんな殻にこもんな。 俺たちが何時でも話相手にも遊び相手にもなってやっからよ。) (─恐れるな、誰かと関わることを。) 「明斗、あまり思いつめないでくれ。 お前のペースで歩んでくれりゃいいんだからさ。」 "柳多明斗は、歩むのが怖かった" …To Be Continued.
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