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──ガタンゴトン!
ソワソワ
明斗さん、まだかな。
早くこの手作り弁当を明斗さんに渡したい。
俺の愛情と丹精込めて作ったこの弁当を。
明斗さんに渡すのが楽しみすぎて昨日はなんだかなかなか寝付けなくて正直寝不足気味なさだけど、そんなのは関係なくて。
ただ、本当にこの弁当を食べてもらって喜んで欲しい。美味しい美味しいって食べてもらいんだ。
『まもなく○○駅に到着します。
揺れにご注意ください。』
「あっ、明斗さん来るぞーっ。」
いよいよ、いよいよだ。
明斗さんに俺の手作り弁当を。
『ドアが開きます。ご注意ください。』
シュゥゥー!
「よう、今日もおはようさん。」
「はい!おようございます明斗しゃっ…さん!」
待ちに待った明斗さん。
なんだけど、勢い余って噛んだ…。
は、恥ずかしいぃ。
「ふっ、今噛んでたな。」
「うっ、言わないでくださいよ。」
ほら、やっぱりいじられた。
でも、明斗さん普段表情動かないけど、こういう時は心做しか動いてるんだ。
現に愉快そうに口の端を微量だけどあげている。
だから、言葉を噛んだことは恥ずかしいけど、あまり表情の動かない明斗さんの動いたところを見ると、つい嬉しく感じてしまう。
だって俺、明斗さんの色んな表情をいっぱい見たいから。
「聞いちまったもんは仕方ないだろ?
でもまぁ、立ち話もなんだ、隣、座ってもいいか?」
「あ、はい。どうぞどうぞです。」
「ありがとうな。」
そうこうして俺の隣座る明斗さん。
相変わらず荷物が全くないのは、膨れたポッケに全て入れているんだろうと察して、身軽でなんだか羨ましいなと思う。
俺は学生だから教材やら電子辞書、体操着とかちゃんと持ってかないいけないから。
お陰様で今日もリュックが重たい。
とはいえ、水筒すら持ってきてないのはちゃんと水分出来てるのだろうかと心配になるけど。
「武晴くん、今日なんかいつもより元気な気がするけど、なんかいい事でもあったのか?」
「えっ、あ、気づいちゃいましたか?」
「そらまぁ、な。」
頬をポリポリと掻きながらそう言う明斗さん。
楽しみがやっぱり顔と態度に出てたのか、いつもよりテンションが高いと気づかれていた。
俺ってこういうとこがあるから嘘とか隠し事、本当にできないんだよなぁ。
そう改めて思う。
って、これはいいとして。
「シシッ、流石明斗さん。
実はですね、今日はサプライズがあるんです。」
「サプライズ?」
「はい!」
「…そう、かよ。」
こうして指摘されてしまったわけで、渡すなら今だと思った。
サプライズと称した、俺の丹精込めて作ったこの弁当を明斗さんに。
でも、あれなんか明斗さん拗ねてるような。
ん?なんでだ?
ま、いいか!
これを渡せばよく分からないけど機嫌は治るはず!
そう思って俺はリュックから弁当を取り出した。
「ということで、明斗さんこれどうぞです!」
ゴソゴソ、ササッ!
「えっ、な、なんだ?」
「シシッ、俺からの弁当のサプライズです!」
まさか自分へのものだとは思ってなかったと言わんばかりに目を見開き驚く明斗さん。
そして、そのまま差し出した弁当を受け取って。
普段の仏頂面が分かりやすく崩れていた。
そんな明斗さんに俺は面白くて嬉しく思って更に笑みが深くなる。
「べん、とう?」
「はい、昨日のお昼のやり取りしてて思いついたんです。
明斗さんに手作り弁当を作ろう!って、シシッ。」
「え、た、武晴くんがこれを作った、のか?」
「そうです。母さんの監修の元一から全部作りました!」
「……そう、なの、か。」
マジマジと黒色の弁当袋に包まれた弁当を見ながらたどたどしく言葉を絞り出すように呟く。
そんなになるほど驚いてくれると俺としてもしてやったりって感じだ。
「母さんに太鼓判おされてるので、味はちゃんと保証できます!
だから、良かったら受け取ってお昼に食べてください。」
「別にんな気遣わなくても良かったのに。」
「気を遣うとかそんなんじゃなくて、俺がしたくてやったんです。
明斗さんに、たまにはコンビニじゃなくて、俺のバランスとか美味しさ2こだわったその弁当を食べて欲しいって。」
「そう、か。」
相変わらずな反応に変わらないなぁと思いつつも、俺は素直な思いを言う。
でも、明斗さんは何処か浮かない顔で、母さんの言ってた通りやっぱり迷惑だったのかと、少し思う。
それだったら、言って欲しい。
きっぱり諦めるから。
「…迷惑なら、迷惑って言ってくださいね。そしたらその弁当、俺が処理しますから。」
「ばっ!な、それはダメだ! 」
「!!え、でも。」
反応を見かねて言った言葉に、明斗さんは予想外の反応を見せたんだ。
弁当をギュッと持ち俺とは反対の向きにそらし、焦って吠えるかのように言うその姿。
それに俺は思わず驚いた。
「だ、だってこれはた、武晴くんが俺のために作ってくれたん、だろ?
折角わざわざ作ってもらったんだ。
そんな無碍なこと、できねぇよ。」
「えっと、無理はしなくてもいいん、ですよ?」
「無理してねぇ。
ただ、驚いただけだ。
こんなことされるの、初めてだったから。
だから、いらねぇなんてこと、ねぇ。」
「明斗さん。」
弁当を見つめながらそう言う明斗さん。
その顔は心なしか綻んで見えて。
こんなことを思うのは良くないけど、本当は俺、菓子折の時のやり取りみたくなかなか受け取ってくれないと思ってたんだ。
だから、正直今、すごく驚いてる。
こんなあっさりと受け取ってくれたことに。
「その、俺のためにわざわざ作ってくれて、ありがとうな。
ちゃんと、大事に食べるから。」
ワシャワシャ
「っ…!!シシッ!はい、どういたしましてです!」
視線は弁当のまま、相変わらずの仏頂面だけど、その表情はほんのりと頬を赤く染め照れているようだった。
あのぶっきらぼうな撫で方も、あの2度目に会った時に近い、優しい撫で方で。
そんな明斗さんを見て聞いて、触れられた途端に嬉しい気持ちがいっぱいになった。
あぁ、嬉しい、嬉しいな。
良かった、弁当、受け取ってくれて。
まじまじと弁当を見続ける明斗さんに、自然と笑みが深まった。
シシッ、 やっぱり明斗さんといると凄く楽しいや。
本当に、この明斗さんとの時間がずっと続いて欲しいって思うくらいには。
明斗さん、たんと俺の作った弁当、食べてくださいね。
〜おまけ〈昼食〉〜
「─柊、はい、これ。」
サッ
「お?…ハッ!これはまさか。」
「あぁそうだよ。
あんまりにもしつこいから、ちゃんと柊の分も作ってやったんだよ。」
「萩野…俺の嫁に来るか。」
「〜//!馬鹿!アホかっ!!
んなふざけたこと言うと弁当没収するぞ!」
「一度貰ったんだ。
返せと言われても俺が食い終わるまでは返さん。」
「そうかよ。まぁ、茶番はもいいから、折角作ってやったんだから、ちゃんと食べてくれよな。」
「フッ、当たり前だ。」
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