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三.五駅目 本当に甘いのは─。 (こぼれ話)
武晴の母親Side
─タタタタッ
「なぁ母さん母さんっ。」
そう、息子が初めて弁当を作ると言ったのはこの時だったわね。
息子がやけに足軽に気持ちを浮かれさせ此方に来たのだ。
右手に、特に何か頼んだわけでもないのに、食材の入った袋を持って。
「シシッ、俺、明斗さんに弁当作ることにしたんだ!」
「……んー、なにがどうなってそうなったのよ。」
そう、それの正体はいつの日か武晴が学校に行く途中に体調を崩した時に助けてくれた人、明斗さんという人のために作る弁当の材料だったのだ。
お礼の菓子折は武晴が渡して貰ったけど、今度はなんで弁当なのやら。
「お礼は言ってお礼の物を──。」
武晴曰く、明斗さんはほとんどコンビニ弁当だから心配になった、と。
まぁ、なんとも甲斐甲斐しいというか武晴らしいというか。
武晴は昔からこうなのだ。
武晴にとって、友達は大事にするもの。
それが、人一倍に強い。
だから、大事だと思う友達に、そこまでしなくてもいいんじゃない?と思うくらいには甲斐甲斐しく、自分ができる範囲で動くのだ。
時にそれが自分を苦しめることもあるのに。
いや、何度かすでに苦い思いをもうしてるわ。
(ねぇ、お母さん。)
(なに、たけちゃ─!?ど、なっ、どうして泣いてるの武晴!)
(ぼ、ぼくっ、友達に嫌われちゃっだ…っ。)
(嫌われちゃったって、なにがあったの。)
(ぼくっ、良かれと思ってやった事が迷惑だったみたいでさっ、それ、それで、グスッ、うざいって、ありがた迷惑って、キモイって、言われっ、てっ…う、うぅぅ─)
これが武晴が小2の時。
(母さん、その、お小遣い、来月分の今くれない?)
(武晴、それは、どうしてなの?)
(えっと、その…さ、友達がどうしても今欲しいのがあるって、五千円あれば買えるから買ってそれを俺にくれよ、って。
友達なら、もちろん無償で買ってくれるよな、って、言わ、れて、さ。)
(っ!?…武晴、今からお母さんが言うこと、よく聞きなさい─)
これが、武晴が中一の時のことだった。
武晴のその優しさに付け込まれたり、かえって仇になってしまうなんてことが過去にあったのだ。
だから私は、その武晴のそのしたいことに正直不安を感じてしまっていた。
それがまた悪い方向に転じて、武晴をまた苦しめることになってしまわないか、って。
だから私は素直に良いよとは言えなかった。
「うーん、良いとは思うけど、恩はあれどそこまでする必要性は──にならないといいけど。」
「俺が!俺がそうしたいんだ。
俺と明斗さんは確かに年齢も立場も違う。けど、友達だから。
友達のことを心配して行動するのは悪いことじゃないでしょ?」
でも、武晴は言う。
いつもの変わらないお人好しな言葉。
顔は真剣そのもので、目には覚悟が見えた。
分かってるんだ。
自分の優しさが裏目に出て苦しい思いをすることを。
それでも武晴は、自分がそうしたいからって、友達を助けることは何も悪いことなんかないって、私に訴えかける。
ふふっ、本当にこの子、武晴は
「ふっ、ほんとあんたって子は。
そこまで言われちゃ教えない、なんてことは言えないわね。
いいわ、教えてあげる。」
「!ほんと!や、やったー!母さんありがとう!」
「はいはい笑」
あまいんだから。
でも、そんな武晴だから私にとって自慢で愛らしい息子なんだ。
優しくて周りを晴れやかにしてくれる、そんな武晴を。
「ちなみにだけど、勿論自分の分の弁当も作るってことでいいんだよね?」
「え?あっ。」
「…。」
「あ、あはは!も、勿論俺の分の弁当作るに決まってんじゃん!もうやだな〜母さんてばっ!」
「だよね〜!」
敢えて聞いてみたけど、絶対忘れてたわよねこの子ったら。
そんな分かりやすい誤魔化しで私が気づかないとでも思ってるのか知らねぇ。
ふふふ…。
だがしかし、この後の弁当作りで悪い意味で度肝を抜かされるとは、思いもしなかったのはここだけの話である。
…何をどうしたらそんなお腹を壊しそうなハンバーグが出来るのよ………。
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