一駅目 出会い

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〜半年前〜 「…うっ。」 あ〜、最悪だ。 確かに朝起きた時なんか身体が変だとは思っていた。 たけど、こんな突然一気に体調が崩れるなんて聞いてない。 頭がガンガン痛む。 気持ち悪くて吐き気がする。 身体の倦怠感が半端なかった。 あぁ、どうしよう。 このままじゃ、学校までたどり着ける気がしねぇ…。 「─い、おい!」 「!…えと、すみません。なん、です、か?」 思った以上に身体の調子はすこぶる悪くて、頭痛と共に頭はぐるぐるとまわっていた。 そんな時だったんだ。 明斗さんとの出会いは。 「お前、調子悪いだろ。 次の駅で降りるぞ。」 「え、なん。」 「そんな状態でお前、学校行けねぇだろ。 だからまずは、冷えピタとか風邪薬、スポドリとか必要だろ?」 「!!」 見ず知らずの俺に、明斗さんは手を差し伸べてくれた。 体調の悪い俺を介抱しようとしてくれたんだ。 終始ムスッとした明斗さんだったけど、あの時の俺にとってはヒーローみたいだった。 カッコよかったんだ。 『まもなく○△駅に到着します。 揺れにご注意ください。』 「ほら、降りるぞ。 手、貸せ。 その様子だと1人じゃ立ち上がるのも億劫だろ?」 「すみ、ませっ。」 「謝んな。ほらっ、行くぞ。」 そう言い、俺の荷物を持って手を差し出してくる。 軽く意識が朧気になりながらも俺は何とか手を伸ばす。 すると、明斗さんは俺の手を掴んで、自分の肩に腕を回したんだ。 どこまでも気遣いの効いた動作に嬉しく感じて、何故だか涙が出そうになった。 トタ、トタ─。 「ベンチ、着いたぞ。 とりあえず座っとけ。 ちょっくら必要なもん買いに行くから。 あと、本当に無理そうなら親御さん呼びな。」 「は、い。」 ドサッ 熱も出てきたのだろうか寒気を感じつつ身体は火照っていた。 あ〜、頭がボーッとする。 意識が、飛びそうだ。 「んじゃ、いい子に、な。」 タタタッ─ 「…はぁ、あ。」 ベンチまで俺を運んでくれて、あの人は人混みに駆けていった。 見ず知らずの俺なんかほおって置けばいいのに、なんでここまでしてくれるんだろうか。 見た感じ、あの人は社会人で、会社に出勤していた途中だったろうに。 その事に罪悪感を覚えて、自分に不甲斐なさから怒りを覚えた。 治れ、はやく治れ。 こんな頭痛も倦怠感も吐き気も全部全部。 なくなってしまえ。 「─おい、おい起きろ。」 「…あ、れ、寝て、た?」 身体を揺さぶられる。 それと同時に意識が浮上して、自分でも気付かずいつの間にか意識を失っていたみたいだった。 前をよく見れば、俺のことを介抱してくれた人がいて、片手に袋を持っていた。 それが、さっき言っていたものたちだと悟る。 本当に体調が悪い時って、こんな気付かず意識を失うものなのかと、どこか他人事のように思う。 でも、それと同時に自分は本当に体調がすこぶる悪いのだと、改めて実感させられた。 「あぁ、ばっちり寝てたぞ。 にしても、こりゃ酷いな。 お前、それはもう家に帰宅もんだ。」 「……は、い。」 この人の言う通りだ。 こんな状態じゃ、まともに学校になんて行けないし、余計悪化して倒れるのがオチだ。 あぁ、ほんと、なんで突然体調が悪くなっちまったんだ俺は。 「とりあえず、必要そうなものは買ってきたから。 まずはこれを飲め。」 ガサガサッ─パキパキッ 「あ、ありがとうござ、います。」 ゴク、ゴク。 渡された飲み物を受け取って、イガイガする喉に流し込む。 すると、それが身体に浸透していくのを感じるのと共に、すっかり乾ききった喉に潤いが戻ってきて、喉のイガイガが和らいだ。 「ほらっ、冷えピタもだ。 デコ出せ。」 「…ん。」 ピタッ ふぅ、冷たくて気持ちい。 「これでよしっ。 あとは、親御さんに電話だな。 お前、もし良けりゃ親御さんの電話番号教えてくれ。 その様子じゃ電話も苦しそうだからな。」 「っ、すみま、せっ。」 「謝んな、突然体調悪くなっちまったんだろ? こればっかりはしょうがない事なんだから気にすんな。」 ガシガシッ 「わ、ぁ。」 頭を撫でられた。 とはいえぶっきらぼうな撫で方で頭が少し回りそうになる。 でも、どこか心地良さを感じて不思議だった。 「…です。」 「え?」 「電話番号、○△○-× □▽× -○× ◇▷、です。」 「!…ありがとうな、教えてくれて。」 「いえ、その、あと、俺の名前、武晴(たけはる)、です。」 「たけはる、いい名前だな。 俺は、明斗(あきと)だ。よろしくな。」 「は、い。」 こんなこと言うのはなんだけど、この人は、信用できる人だ。 見た目はムスッとしてて正直話しかけずらい様な人相をしてるけど、 その正体は、確かに素っ気なさとかぶっきらぼうなところはあるけど優しくて、暖かかった。 それに、カッコ、いい。 だから、電話番号と自分の名前を、教えたんだ。 そうすればあの人は、薄く微笑んでくれて、あちらも名前を教えてくれた。 あきと、さん、か。 明斗さんも、いい名前、だな。 …ドキ 「それじゃあ、親御さんに電話かけるから、少し待ってろな。」 prrrrrr─ 「あ、もしもし。突然のお電話すみません。お宅の息子さんの武晴くんが───でして、─はい、はい────。」 あ、やば、い。 なんかまた、意識飛び、そ。 視界が、霞んできた。 あきとさんが母さんに電話掛けてくれてるのに、寝るなんて、ダメだ。 そんなの失礼だ。 しっかりしろ、俺。 ポンッ。 「無理すんな、武晴くん。 俺がちゃんと見てるから寝てな。」 「っ…ぃ。」 そんな時だった。 あきとさんに頭を優しくひと撫でされて、諭されたんだ。 その言葉を聞き何故だか安心して、俺は意識を失うように暗転した。 はい、という言葉、ちゃんと言えただろうか。
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