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〜時は戻り、今〜
「ねぇ明斗さん。」
「なんだ。」
「俺と、あの時友達になってくれてありがとうございます。」
「!き、急にあらたまってなんだよ。」
「特に意味は無いですけど、なんだか言いたくなって言いました!」
「なんじゃそれ。」
「シシッ!」
突然の言葉に驚く明斗さん。
初めて会った時の事、2度目ましての時の事を思い出していたら、感謝の言葉を言いたくなったんだ
あれがなければ、明斗さんとこうして友達になれることはなかったから。
電車の時間も、今はとても楽しみだから。
「………と、よ。」
「んん?いま何か言いました?」
「いや、なんも言ってねぇよ。」
「えぇ本当ですか?」
「あぁ、本当だ。きっと空耳だろ。」
「ほぅ。」
今、確かに聞こえた気がしたんだ。
明斗さんが何か言ってる声が。
でも、明斗さんは何も言ってないと言い張るものだから不思議で首が自然と傾いた。
「…柳多(やなぎだ)だ。」
「え?」
「俺の苗字、柳多。柳多明斗だ。覚えとけ。」
「へ、ん?えぇ!な、え、突然どうしたんですか明斗さん。」
「別に驚くことじゃないだろう。特に意味はねぇよ。
ただ、武晴くんになら、言ってもいいかなって思っただけだ。」
「明斗さん…!」
今度は俺が驚く番だった。
今まで教えてくれなかった苗字を、何故か今教えてくれたから。
何がきっかけだったのだろうか。
どうして、今なのだろうか。
分からない。
けれど、教えてくれたことにとても嬉しく思う俺がいた。
「武晴の苗字も、教えてくれよ。
俺だけ教えるのも不公平だろ?」
「あ、そうですよね!
俺の苗字は萩野(はぎの)です。
萩野武晴です!」
「萩野、か。いい苗字してんだな。」
「シシッ、はい!」
「改めて俺からも、ありがとうな。
こんな俺と、今もまだ友達になってくれてさ。嬉しいよ。」
「〜!!」
明斗さんに言われて俺も苗字を教えた。
本当は前々から俺の苗字を教えようとはしてたんだ。
でも、明斗さんが頑なに聞いてくれなかったから今になったわけで。
だからこうして今言えたことに更に嬉しく感じた。
そして、追い討ちをかけるように明斗さんのデレに嬉しさのあまり言葉が詰まってしまった。
あぁやばい、凄く嬉しい。
明斗さんがありがとうって、嬉しいって。
こんなに嬉しいこと、ないよ俺。
今俺、絶対顔が赤いな。
こんな不意打ち、ずるいよ明斗さん。
あまりの嬉しさにどうにかなりそうだ。
「改めて、よろしくな、武晴くん。」
「こ、こちらこそ改めてよろしくお願いします!」
「ははっ、慌てふためきすぎだ。
そんな俺が言ったこと、変だったか?」
「いえ!ぜんっっっぜんそんなことないです。
寧ろめっちゃくっちゃ嬉しくてやばかったです。」
「そうか。それは良かった。」
「わぁ。」
ガシガシッ
まただ。
また、明斗さんに頭を撫でられた。
こんなぶっきらぼうな撫で方なのに、何故だか落ち着く。
普段、明斗さんは仏頂面でぶっきらぼうな喋り方で、人をよせつかせない雰囲気を出してるけど、本当はとても優しくて、こんなにも楽しい。
それに、カッコイイんだ。
この人の傍にいると、落ち着いて楽しくて、ずっと一緒にいたいって思える。
例え電車通勤が無くなっとしても。
それでも俺は、明斗さんと関わり続けたいと思う程にずっと、こんな時間、日々が続けばいいのに。
そしたらいつまでも一緒にいられる。
でも、こんなの流石に我儘が過ぎるよな。
だからせめて、この時間一つ一つを大事にしたい。
俺の、大切なこの一時を。
「なぁ、武晴くん。」
「なんですか、明斗さん。」
「武晴くんが良かったらさ、連絡先、交換しねぇか?
あの時からなんやかんや言って結局出来ずにいてたのもあるからさ。」
「─勿論です!!」
急な進展ばかりな今日。
もしかしたら、俺の中で今日は最高の一日なのかもしれない。
電車の窓から入る早朝の暖かな日差しが俺らを照らす。
それが、何時もよりとても心地よく感じたのはきっと、そのせいかもな。
…To Be Continued.
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