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ある日、近所の神社にわたしは連れていかれた。お父さんとお母さんが、ごめんね、といってわたしのおでこにキスをした。
いつかがとうとう来てしまった。
わたしは悲しむ両親に震える声で、大丈夫だよ、と返事した。
神社の人に赤い朱肉のようなもので腕に模様を描かれる。
外に出ると無人のおみくじが売ってる販売所がある。
『変だとピンときたらお近くの組合まで』
という文字だけのポスターが風でバタバタとはためいて、剥がれそうなのに剥がれない。
ピンときたら組合まで、という言葉は耳になじみがある。小さいころから学校のお知らせや、街のポスターや回覧板、たまにネットやテレビのCMでも、ふとした時に耳に入っていた。きっとみんなは、社名は知っているけどなんの会社かわからないみたいな感じで、聞きながしてる。わたしはそれをいつも見なかったことにしていた。心の底ではいつか自分は誰かに指をさされることをわかっていたけれど。
人間のはずなのに、どうしても人間にうまく混ざれない。
そんな人間は組合に連れていかれる。
その後どうなるかは誰も知らない。
神社から離れた林の合間、石畳の細い道が続いてる。全然人が通らないのか雑草が石の間からのびていてその上を歩いた。
奥の奥まで進んだところで古びた小屋があった。同じように古びた暗い茶色の扉には不自然に真っ赤な、わたしの腕と同じ模様が。
横ではわたしをここに連れてきた大人の人がなにか説明をしている。ちゃんと聞かないといけないのに、耳にバリアが張ってあるみたいによく意味がわからない。
大人の人は説明が終わったのか離れると両親がわたしの手をにぎった。両親の手は優しくわたしの手を握るから、すぐにほどけそうだ。
あぁ、もう、どうしようもないんだ。終わりなんだ。
「げんきでね、――」
「うん、ばいばい」
わたしは両親に笑顔で別れをつげて、うながされるままに古い扉を開けた。
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