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第二話 葬式
退院した日が桃花の父の葬式になった。
一日しか経っていないからいいが、もしも桃花が一日で退院しなかった場合どうしていたのだろう。桃花は運転している母にそのことを聞こうと思ったが、なぜか嫌な雰囲気を感じて、無言になってしまった。
しかも、倒れる直前で見たあの化け物は一体なんだろうか、桃花は頭の中でぐるぐると思考を回していた。
葬式場に辿り着く頃には夜になっていた。桃花は、車から降りる。
葬儀場の中にいるきてくれた親戚の方々や、近所づきあいしてくれた方々、大勢の方々が遠くからきてくれた人々に頭を下げた。
それほど父は愛されていたのだと、泣いてしまいそうになる。
そうして、棺桶の中で眠っている父をみるべく、顔を覗き込もうとした。
「やめておいた方がいいですよ」
住職の方が困り眉でそういった。
「どうしてですか?」
桃花がそう問いかけると、住職は重い口を開けて言った。
「この村は『おかしい』んです、だからあなたも出来るだけ早く帰りなさい。こうなる前に」
そう言って、持ち場に戻ってしまった。
桃花は唖然としながらその背中を見送った。だが、そこまで言われると見ずにはいられない。
桃花は、覗き込んだ。
「ひっ」
無数の穴のあいた父の体にはうじ虫が湧いており、目は大きくかっぴろげ、口は裂けるくらい大きく笑っていた。
元の父の面影はなかった。桃花は泣き出してしまいそうになるが、動けなかった。
「あら」
母の声を聞いて、振り返った。村の人々、近所の人、親戚がいた。
「『見ちゃったのね』」
「え?」
どういう意味かわからず、桃花は聞き返してしまった。そして、気づいてしまった。
全員『笑顔』だということに。
気持ち悪いくらいいい笑顔だった。その笑顔には悪意は全くない、あるかもしれないが、桃花から見たら全くないのだ。
この村はおかしい、雨が強く降り始める音を聞きながら、無意識に汗も流れ始めていた。
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