夢の町

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 軽く歩き回ってみると、田舎なだけあって、潰れたような店ばかりで、鉄骨の建物はただの建築物の型だったようです。冒険の結果はつまらないものでした。未開拓の地といえばワクワクと新鮮さに溢れてるものだと思っていたけど、そういう訳ではなかったみたいです。思えば冒険しようって考えた時が一番楽しかったように思います。なんだってそうなのかもしれません。たぶん始める瞬間は自分の本当の才能が分かってないからでしょう。自分が天才でない事を知ることは不愉快なことです。凡人だと知ると冷めてしまいます。たぶん凡人だと自分が分からない人なら全ての行動において幸せなのでしょう。もちろん天才の方が幸せだと思います。つまりボクはこの地の開拓において天才でない事に気づいたのです。そのため家に帰るか、もう少し調べるかとても迷いました。そうだ。遊び相手を探そうとボクは思い立ちました。仲間がいればひとりぼっちにはなりません。だから凡人である事が気にならないのです。何故かは知りません。きっとそれはボクが凡人だからなのでしょう。おじいちゃんがよくそんなことを言っていました。ボクのおじいちゃんは高尚なのです。おじいちゃんはなんでも知っています。子供の頃は森でよく遊んでいたとおじいちゃんが言っていた気がしたので、森にボクは入って行きました。残念ながら子供は一人もいませんでした。でも、虫が沢山いる事が分かりました。名前が分からない虫ばかりでした。名前が分かる虫は蚊とダンゴムシだけでした。虫かごを手に入れれば、しばらく遊んでいられます。もう少し暖かくなればカブトムシやクワガタもいるでしょう。もしかすると猪や熊が出るかもしれません。またこの森に入るのが楽しみです。その時は友達と一緒に行きたいと思います。家に帰るのは憂鬱でしたが、森で手に入れた自然のエネルギーを持って帰りることにしました。森を抜けて町を見渡すと、全て今日の事なのに、ここに来たのがずっと昔だったように思いました。この町は森に比べると、ずっと汚いとです。人間も最初は森に住んでいたのでしょうか。だとしたら森を綺麗だとは感じなかったのでしょうか。だとしたらそれだけボクの今の暮らしは汚いのでしょう。夕日が空に浮かんでる気がしましたが、上を向くと、日はまだまだ沈みそうに有りません。それなら後ろに夕日が浮かんでいるのだろうと思って、振り向くと大きくて真っ白な狐がボクの目に写りました。ボクにはその狐は微笑んでいるように見えました。きっと森をボクに汚されると思っていたのでしょう。瞬きをしたら白い狐はもういませんでした。まさに瞬く間に消えてしまったのです。森の入り口に戻って周辺を調べてみると足跡は残っていました。おそらく早足で森に戻っただけでしょう。ボクが森にまた来たら姿を見せてくれるでしょうか。また白い狐が見たいです。食卓でお母さんに話したら、お父さんが生前によく白い狐を見たと言っていたと言って気味悪がりました。夢の無いお母さんはボクから見てもっと気味悪いです。そしてお母さんの雷がボクに落ちなかった事も津波の前の海のようで気味悪いです。近いうちに厄日が来るでしょう。狐はそれを知らせたかったのかもしれません。
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