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第二部 21.旅立ち
あの騒動が嘘のように、私たちの周囲にはまた穏やかな日常が戻ってきた。
しばらくはテレビ局や新聞社、雑誌社の人が大勢押しかけてきて、白鳳の祈祷所の焼け跡や切らずの森で取材をしていた。生贄にされそうになった美織ちゃんのところにも取材が来たけれど、美織ちゃんのお父さんが断固として断ってくれた。
「まあ、一時的なものだよ」
美織ちゃんのお父さんはそう言って笑い、美織ちゃんと絹子おばさんを支え守ってくれた。
その言葉通り、新しい芸能スキャンダルが起きると一気に町は静かになった。
変わったことといえば、白鳳の燃え落ちた祈祷所跡が更地にされて、来年には全国チェーンのドラッグストアができることと、駐車場跡では元気に駆け回る子供たちの声が聞こえるようになったことだ。
耕ちゃんによれば、賢作さんは千田さんからたっぷり地域の信仰の話を聞いて、修士論文の総仕上げのために東京へ戻って行ったらしい。
その千田さんはといえば、毎日畑に出て農作業に精を出している。
私はといえば、部活がない日は美織ちゃんや耕ちゃん、翼くんと相変わらず図書館に集まってはおしゃべりする毎日だ。
美織ちゃんは絹子おばさんから、白鳳の屋敷で翼くんが美織ちゃんを背負って、「美織は渡さない!」と叫んで守ろうとしたことを聞いて、満更でもない様子だ。私と耕ちゃんが部活でいない時も、二人で待ち合わせをしているらしい。
しかし、そんな楽しい日常も、いつかは終わりが来る。別れの時が近づいていた。
絹子おばさんと美織ちゃんのお父さんは夫婦としてやり直すことになり、春から家族三人で富山で暮らすことになったのだ。
美織ちゃんと別れるのはとても寂しい。でも、美織ちゃん家族の幸せを思うと、我慢できた。私はもう子供じゃない。会いたくなったら、いつだって会いに行けるのだ。寂しさはあっても、小学生の私が引っ越した時のような、悲しさはなかった。
美織ちゃんの家は少しずつ引っ越しの準備が始まっていて、お父さんが毎月、富山から出て来てはいろいろやってくれているそうだ。
美織ちゃんとお父さんの間は、十数年の空白があったとは思えないほど自然で、仲良しの父娘だ。絹子おばさんも、旦那さんをすごく頼りにしているのがわかる。そんな三人を見ていると、私まで幸せな気分になった。
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