第二部 21.旅立ち

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 その年の暮れ。美織ちゃんの家では、秘かにある儀式が執り行われた。  うちも呼ばれてお父さんと私が参加した。  あの、裏庭の家、鈴江さんを閉じ込めていた家を取り壊すことになったのだ。  業者さんが工事に入る前日。絹子おばさん、美織ちゃんのお父さん、美織ちゃん、それに私と父、東京から駆け付けた賢作さんが立ち会い、千田さんと数人の初老の男性が紋付き袴で儀式を司った。  千田さんはまずお経のようなものを唱え、そのあと大きな数珠を持った男性たちを従えて家のまわりを何周か歩いた。  賢作さんは千田さんの許可を得て、記録映像を撮っていた。  ここで起きてしまった悲劇を悔やみ、犯した罪の許しを請い、土地を浄めるためのものだったと、あとで賢作さんが教えてくれた。  それはとても厳粛で、心が洗われるようなものだった。  取り壊し工事が終わったあと、美織ちゃんに誘われて見に行くと、もうあの家は跡形もなく、そこにはただ裏庭が広がっていた。私にとってもそこは幼少期のつらい思い出がある場所であったが、それももうすっかり過去のものになった気がした。  その年の暮れは、私と美織ちゃん、耕ちゃんと翼くんで切らずの森近くの神社に年越しのお参りに行った。四人でお参りをして、おみくじを引いた。 「あ、大吉」 「私もだ!」 「俺、小吉」 「くそっ。吉だ。ていうか、小吉と吉ってどっちがいいんだ?」  取り留めない会話が楽しかった。もうすぐ離れ離れになるけれど、でも絶対にまた会える。そう信じられた。  年が明けたある日、美織ちゃんの家に急に父と私が呼ばれた。  美織ちゃんの家のお座敷に入ると、美織ちゃんと絹子おばさんとお父さん、そして千田さんと見知らぬ女性が座っていた。女性は上品な和服を着た綺麗な人で、年齢は父や絹子おばさんより上、五十代前後だろうか。  絹子おばさんはその女性に、私たちのことを遠い親戚で、特に美緒ちゃんは鈴江さんに縁があるようだと紹介してくれる。そして、「健夫兄さん、美緒ちゃん、こちら美鈴さん。鈴江さんの娘さんです。千田さんが探してくださって、ようやくお会いできました」と、私たちにもその女性を紹介してくれた。  初めて会った気がしないのは、優しい雰囲気が鈴江さんに似ているからかもしれないと思った。
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