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「千田さんや絹子さんから、母のことを聞きました。生きては会えませんでしたが、今こうして縁のある皆さんにお会いできてとても嬉しい。本当によかったです」
美鈴さんはそう語ると、これまでの自分の人生を話し始めた。
鈴江さんが実家に戻されたあと、美鈴さんはお手伝いさんに世話をされ育てられた。お父さんはすぐに新しい奥さんを迎えたが、新しい奥さんに次々子供が生まれ、美鈴さんの居場所はなくなり、寂しい思いをしていたそうだ。
「産みの母に会いたい。そういうと、父に殴られました」
美鈴さんは継母に邪魔者扱いされ、弟妹の世話をさせられて、子守りのような扱いを受けたらしい。
美鈴さんは、十八で何も与えられずに家を追い出された。そのとき、兄妹のように育ったお手伝いさんの息子さんが親身になって助けてくれ、やがて夫婦になったそうだ。
「最初は何もないところからのスタートで苦労続きでした。借りた農地を二人で一生懸命耕して、蓄えたお金で少しずつ土地を手に入れて農地を大きくしていきました」
今では比較的大きな農家になり、子供達に囲まれて穏やかな暮らしを送れるようになったという。
「実は、お見せしたいものがあるんです」
美鈴さんは帯の間から、何かを取り出してテーブルに置いた。
「それは!」
絹子おばさんが反応した。
それは、花柄の縮緬の紐で結ばれた小さな鈴だった。
「それ、私が鈴江さんにあげたものです!」
絹子おばさんが小さい頃、あの小さな家で初めて鈴江さんの霊に会った時にあげた鈴だという。
「ああ、やはり……。ではあれは母だったのですね」
そう言うと、美鈴さんは涙を流した。
「千田さんから電話をいただく少し前に、昔の夢を見たんです」
美鈴さんが小学生の頃のつらい思い出だ。
学校の帰りに急に雨が降り出した。友達は皆、母親や父親が迎えに来る中、美鈴さんは濡れながら一人で歩いて帰ったそうだ。しかし、神社の前で本降りになり、木陰で雨宿りをしていた。
「ちょうど親のこととか思い悩んでいて、もうこのまま消えてなくなりたいと、そう思ってしまいました」
自分のことなんか誰も気にかけてくれない人生なのだと、そう思って泣いていていた。
いつもはそれで旦那さんに起こされ、泣いて目が覚めるの。ところがその時は違った。
夢の中で、浴衣姿の綺麗な女性がどこからか現れたのだ。
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