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第一部 2. 幼馴染
「美緒ちゃん、美織、おいで」
絹子おばさんは座敷を二つつなげて宴会場と化した部屋の、庭に面した縁側で遊ぶ私たち二人を呼ぶと、父とおばさんの間に座るように言う。
「好きなのを食べてごらん」
おばさんはいつもお酒ばかり飲んでいて、ご馳走にはほとんど箸をつけない。
だから、私と美織ちゃんは遠慮なくおばさんのご馳走を食べさせてもらった。
女の人たちは奥の台所で片手間に残り物をつまむだけなので、私は母や祖母の側にいるより美織ちゃんと一緒にいる方を選んだ。
その様子を見て、涼子叔母さんは、「美緒ちゃん、侑輔たちと遊びなさい」
と、従兄の侑ちゃんや私の弟の隆平と一緒にいるように誘ってくる。
でも、一つ年上の従兄の侑ちゃんは近頃急に「女はだめだ」とか「女のくせに」とか意地悪を言ったり、威張ってあれこれ命令してくる。
私の弟の隆平までそれをまねするようになってうんざりしていたので、美織ちゃんと一緒の方が断然楽しかった。
なぜ叔母が、私が美織ちゃんや絹子おばさんと一緒にいるのを嫌がるのか不思議だった。
「美緒と美織は仲いいなあ」
大本家の分家の分家に当たるという和雄おじさんが、少し酒に酔った赤い顔で私と美織ちゃんを見て笑った。
「学校でもクラスが一緒だし、双子の姉妹のようなものよ」
絹子おばさんがそう言って笑った。
美織ちゃんと私はその年の春に小学校に上がり、偶然にもクラスが一緒だった。
大好きな美織ちゃんと双子の姉妹のようだと言われるのは嬉しい。でも、ぜんぜん双子なんかではなかった。
私はすごくさっぱりした顔つきで、ショートヘアで背が高い。
お転婆で動きにくいスカートは嫌いだったから、知らない人に男の子と間違われることがよくあった。
美織ちゃん相手だから、おままごとやお母さんごっこに付き合ったけれど、本当は男の子とボールで遊んだり、かくれんぼしたり、虫捕りをする方が好きだった。
それに比べて美織ちゃんは、絹のような黒髪を肩のあたりで揃え、華奢な体つきで、いつもひらひらやリボンのついた洋服を着ていた。
絹子おばさんに似て色白で黒目がちの目ははかなげで、まつげは長くくるんと上を向いていた。
唇は紅を差したように赤くふっくらとしていて、はっとするほど愛らしかった。
「しかし、名前が紛らわしいな」
和雄おじさんは苦笑いして言った。
私と美織ちゃんは同い年で、誕生日は二週間しか違わない。
私の方が早く生まれたが、お母さんは仙台の実家に里帰りして私を産んだ。
そして一ヵ月ほどしてお母さんが赤ちゃんの私を連れてこの家に戻ったら、絹子おばさんも赤ちゃんを産んでいて、「美緒」と「美織」で名前が似ていてびっくりしたと言っていた。
「名前も似ているし、私たち、きっと生まれた時から仲良しなんだね――」
美織ちゃんが私の耳元でそう囁いてくれたので、私は嬉しくて大きく肯いた。
私は美織ちゃんが、大好きだった。
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